吉岡秀隆“新・金田一”に手応え ヤマ場は台本30Pの“1人芝居”吉田照幸監督がカットかけなかった理由

[ 2018年7月28日 20:00 ]

NHK BSプレミアム「悪魔が来たりて笛を吹く」に主演、名探偵・金田一耕助役に初挑戦した吉岡秀隆(C)NHK
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 俳優の吉岡秀隆(47)がNHK BSプレミアム「悪魔が来たりて笛を吹く」(28日後9・00)に主演。名探偵・金田一耕助役に初挑戦した。映画やドラマで石坂浩二(76)古谷一行(74)ら数々の名優が演じてきたが、新しい金田一像を生み出す。

 原作の「悪魔が来りて笛を吹く」は1951年(昭26)発表。横溝正史作品には珍しく、東京の元華族の屋敷を舞台にしたミステリー。過去6回、映像化。今回は三重県桑名市に残る文化財級の洋館で撮影を行い、原作の持つ重厚なゴシックホラーテイストの再現に挑んだ。連続テレビ小説「あまちゃん」などで知られるNHKエンタープライズの吉田照幸監督が演出を担当した。

 銀座の有名宝石店で、毒物を使った殺人事件が発生。容疑者に目された旧華族の椿英輔(益岡徹)は「これ以上の屈辱に耐えられない」と自殺を遂げる。無実を信じる娘の美禰子(志田未来)から捜査の依頼を受けた金田一は椿邸で行われた奇妙な占いに立ち会うが、その夜、館に居候していた元伯爵(中村育二)が殺害される。捜査を始めた金田一は、旧華族のインモラルでおどろおどろしい人間関係が生み出した怨念や悲劇に向き合うことになる。

 吉岡の映画デビュー作は子役時代の「八つ墓村」(77年10月公開、監督野村芳太郎)。金田一を演じたのは、尊敬してやまない渥美清さん。以来、金田一は「胸のどこかにドゲのように刺さって、意識していた」キャラクター。「正直、自分にはもう演じるチャンスがないかもしれないと思っていたので、オファーを頂いた時は思わず『ついに金田一、来た…』と驚きました」と振り返った。

 渥美さんは「八つ墓村」公開時49歳。吉岡は「渥美さんが金田一を演じた年齢よりも早くチャレンジしてみたかったので、実現してよかったなと思います」と喜び「渥美さんに近づいた?」と水を向けられると「これっぽっちも思っていません」と応じた。

 新しい金田一像について、吉田監督は「例えば映画『バットマン』が『ダークナイト』になったみたいに、現代的な金田一が描けないかと。『獄門島』(2016年、NHK BSプレミアム、長谷川博己主演)は狂気がテーマですが、今回の『悪魔が来りて笛を吹く』は家族の物語。吉岡さんが演じることになったので、人間の業や悲しさ、その裏にある優しさなどに心を動かされる、そういう血の通った金田一像を描けないかと模索しました。台本をだいぶ人間ドラマ寄りに書き直しましたが、ピッタリとハマったと思います」と説明。

 吉岡も「僕の一番のイメージは野次馬の中の1人でいられる、景色の中の一部になれる人物像。次々と起こる事件に真正面から向き合い、誰かを助けることに一生懸命、駆けずり回る。そういう心情に重点を置いて演じました」と演技プランを明かした。

 吉岡によると、吉田監督は「基本的に、俳優にNGを出さない。ダメな部分は説明してもらった方が役者は楽なんですが、NGを出さないのは、こちらの演技を信頼した一発勝負という意味です。ストップをかけない分、逆に非常に緊張感があります」という独特の演出。クライマックスの台本約30ページ(オンエア時間だと約25分)は「僕1人だけがしゃべっているんじゃないかと思うくらいの長台詞」だったが、いつまで経っても吉田監督がカットをかけない。「驚いてカメラの方を見たら、テープはもう切れていたんです」

 テープが途中で終わっていたにもかかわらず、カットをかけなかった理由について、吉田監督は「『吉岡さんがどこまでいくのか』、撮影している私自身、どんどん続きが見たくなったほど、演技が素晴らしかったからなんです」と明かした。この膨大な台詞は2日に分けて撮る予定だったが、吉岡が台詞を全部、完ぺきに入れていたことにも感心した。

 吉岡は「『人はすべてを知っているようで、真実を見失う』という、今回の金田一のセリフが大好きで、そこに向かって進んでいけば金田一になれる、今までの金田一とはまたちょっと違った解釈で見ることができると思いました」、吉田監督も「ひそかに、今までで一番おもしろい金田一作品になったんじゃないかと自負しています」と“ニュー金田一”に手応えを示している。

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2018年7月28日のニュース