強者の宿命

[ 2018年3月22日 08:00 ]

<王将戦第6局2日目>豊島将之8段
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】3月18日、東京都内の将棋会館で行われた順位戦A級プレーオフ4回戦で羽生善治竜王(47)に屈した豊島将之八段(27)の姿を見て、「矢尽き刀折れる」という慣用句が頭に浮かんだ。15日には第67期王将戦7番勝負第6局で久保利明王将(42)に敗れたばかり。勝負の世界とはいえ、取材者として少々辛い。

 3月に入ってからの彼の多忙ぶりはすでに有名だ。2日のA級順位戦最終一斉対局から18日まで、17日間で7局に出場。うち2局は2日制の王将戦だったので、対局日数に換算すると9日間だ。

 この間の移動距離を以下にたどってみる。ちなみに豊島八段の自宅は兵庫県尼崎市。

 1日 自宅→静岡県静岡市(383・9キロ)

 2日 A級順位戦最終対局=●広瀬八段

 3日 静岡市→自宅(383・9キロ)

 4日 関西将棋会館(大阪市)でプレーオフ第1局=○久保王将

 5日 自宅→島根県大田市(445・1キロ)

 6、7日 王将戦第5局=○久保王将

 8日 島根県大田市→自宅(445・1キロ)

 10日 関西将棋会館でプレーオフ第2局=○佐藤康九段

 11日 自宅→東京(564・1キロ)

 12日 プレーオフ第3局=○広瀬八段

 13日 新宿→長野県松本市(225・1キロ)

 14、15日 王将戦第6局=●久保王将

 16日 松本→新宿(225・1キロ)

 18日 プレーオフ第4局=●羽生竜王

 19日 東京→自宅(564・1キロ)

 いやはや、こう書きつづっているだけで50代半ばの筆者は寝込んでしまいそうだ。合計3236・4キロは東京―グアム間の約2500キロを優に上回る。

 松本での王将戦では往復行程を同行した。さすがに覇気がなさそうな印象を受けたが、豊島自身は「もう体が慣れたようで、意外に元気なんです」とけなげに言う。2勝4敗で久保王将の前に屈した15日夜の打ち上げでは屈託のない笑顔でスタッフと雑談を交わしていた。ほんの少しだけ安心した。

 王将位も名人の座にも届かなかった豊島だが、その強さはプロの中でも定評がある。あの藤井聡太六段(15)も過去の対戦相手で「実力の差を一番感じたのが豊島先生でした」と明かしているほどだ。今回の屈辱が、いつの日か「豊島時代」を築くきっかけになるのなら…と切に願う。

 まずはゆっくり休んでほしい。バケーション先はぜひともグアムあたりで。(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京生まれの茨城育ち。夏冬の五輪競技を中心にスポーツを広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。時々ロードバイクに乗り、時々将棋の取材もする。 

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