“確執説”を笑顔で一蹴してみせた尾上菊五郎

[ 2017年12月13日 10:15 ]

今年4月に行われた製作発表で、孫の寺嶋眞秀(まほろ)くん(中央)を笑顔で見つめる尾上菊五郎(右)。左は尾上菊之助
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 先月26日に都内で行われた高麗屋親子3代襲名披露祝賀会には、約1300人がお祝いに訪れた。親子3代同時襲名は37年ぶりの快挙でもあり、開場前からひいき筋や縁の深い人たちが列をなし、歌舞伎ファンにとって近年で一番の関心事であることをうかがわせた。

 その列に何気なく目をやると、ちょっと驚いた。ひいき筋や関係者を従えて、尾上菊五郎(75)と富司純子(72)夫妻が先頭に陣取っていたからだ。そして、松竹関係者が「開場です!」と声をかけると、菊五郎はニコニコしながら真っ先に会場前で客を迎えていた松本幸四郎(75)の元へ向かい、お祝いの言葉をかけた。

 この2人にはちょっとした因縁がある。尾上菊五郎夫妻は2003年に開かれた市川染五郎(44)の披露宴を欠席している。染五郎はかつて菊五郎の長女で女優の寺島しのぶ(44)と交際していた時期があり、破局直後に結婚を決めたことが尾を引いた。

 もう十数年も昔の話だが、今も芸能マスコミの間では両家の確執をささやく人もいる。だが、そんな雑音を「そんな昔のこと、もう覚えてねえよ」と笑い飛ばしているような菊五郎と幸四郎の談笑だった。

 伝統ある音羽屋の顔でもあり人間国宝。それだけを聞くと古典芸能のオーラをまとっていそうだが、菊五郎という人はずっと庶民の芝居だった古き良き歌舞伎文化を体現してきた役者だ。演目は江戸時代の世話物が中心。庶民的なキャラクターをさせたら、右に出る者はいない。

 時代にも実に敏感。東京・国立劇場で恒例となっている正月公演では、その前年に話題となったアイテムが登場する。昨年はピコ太郎、一昨年は五郎丸ポーズを披露した。今年もいろいろ考えているようで、先日行われた製作発表では「“ちがうだろー!このハゲー!”をどっかに入れたいんだけどなぁ」と頭を悩ませていた。

 報道陣へのコメントもいつもサービス満点だ。長男の尾上菊之助(40)が中村吉右衛門(73)の四女、瓔子(ようこ)さんとの結婚を発表したときは「何もいらないよ。パンツ一丁で(嫁に)来なさい」と珍言で歓迎。今年10月に歌舞伎座でインドの古典をテーマにした作品を上演したときは「インドの宗教は浮気しても大丈夫みたい。改宗しようかな」と笑わせた。

 一方で家ではまさに大黒柱。しのぶが映画デビュー作で激しい濡れ場とヌードになる決意をしたとき、妻の純子は反対したが、菊五郎は「女優なんだからヌードにもなるだろう」と言って、娘のデビューを後押ししたという。

 家族への深い愛情と、江戸っ子の舞台人らしいユーモアセンス。歌舞伎に興味を持ち始めた方がいるなら、まずは人情味あふれる「菊五郎劇団」の舞台に足を運ぶことをお勧めしたい。きっと、小難しそうという歌舞伎のイメージから解き放たれるはずだ。(記者コラム)

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