「三度目の殺人」是枝監督 福山雅治とは“SMの関係”長台詞5分の幻のシーンあった

[ 2017年9月8日 10:00 ]

「三度目の殺人」で2度目のタッグを組んだ是枝裕和監督(左)と福山雅治(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
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 歌手で俳優の福山雅治(48)が、是枝裕和監督(55)の最新作となる法廷心理サスペンス「三度目の殺人」(9日公開)に主演し、初の弁護士役に挑んだ。2人のタッグは、カンヌ国際映画祭審査員賞に輝いた「そして父になる」(2013年)以来2度目。是枝監督は福山を「イジメ甲斐がある。追い詰められている時が魅力的」と笑いを誘いながら評し“SMの関係”だと言及。福山が“壊れる”新境地を導き出した。また、約5分に及ぶ長台詞の最終弁論の場面を編集でカット。“幻のシーン”になったことを明かした。

 それは、ありふれた裁判のはずだった。30年前にも強盗殺人の前科がある男・三隅(役所広司)が、解雇された食品加工工場の社長を殺した容疑で起訴された。犯行も自供し、死刑はほぼ確実。弁護士の重盛(福山)は、何とか無期懲役に持ちこもうと考える。しかし、財布を奪う金銭目的の身勝手な殺人のはずが、三隅は重盛に相談もなく週刊誌の取材に応え「社長の奥さんに頼まれ、保険金目当てで殺した」と“独占告白”。重盛が三隅に真偽のほどを確かめると、社長の妻・美津江(斉藤由貴)からの依頼メールが携帯電話に残っているという。さらに、三隅の銀行口座には、給料とは別に50万円が振り込まれていた。重盛は急きょ、美津江の主犯へと切り替える。

 三隅と美津江の関係を探るうちに、重盛はある秘密にたどり着く。本当に三隅が殺したのか?その理由は?供述が二転三転する三隅の“底なしの闇”にのみ込まれる重盛は、弁護には必ずしも必要ないと信じていた真実を、初めて心の底から知りたいと願う。いくつもの疑問をはらんだまま、ついに裁判が幕を開ける──。

 「そして父になる」を撮り終えた直後から4年間、是枝監督は福山と「もう1回、何かやりましょう」と企画のキャッチボールを続けたきた。今作は、その中の1つ。必然的にアテ書きとなった。福山が演じるのは、裁判で勝つためには真実は二の次と割り切る弁護士・重盛。弁護にあたり、依頼人への共感や理解はもちろん、真実さえも必要ないというのがモットー。得体の知れない不気味な容疑者に翻弄され、クールで自信に満ちた男が少しずつ崩壊していく様を繊細な感情の動きで表現した。

 是枝監督は16年に刊行した自著「映画を撮りながら考えたこと」(ミシマ社)で「そして父になる」に主演した福山を「役者としてはキャッチャー型。非常にコミュニケーション能力が高く、相手の芝居をきちんと受けることができる柔軟な方」と絶賛していたが、あらためて福山の魅力を聞くと「『そして父になる』の時に思ったのは、黙っている顔が雄弁。むしろセリフを言っていない瞬間にこそ、色気が出る」。それを踏まえ、今回は福山の表情の中に「蔑みだったり、うろたえだったり、畏怖だったり、いろいろな感情が見えてくることにチャレンジしたいと思いました」

 真骨頂は、劇中7回もある接見室のシーン。重盛と三隅が対峙し、火花を散らすが「最初は鎧をまとっている福山さんですが、役所さんとのやり取りの中で、だんだん壊れていく。感情があらわにになり、顔を歪めていくプロセスが一番、魅力的なんじゃないですか。二枚目を崩す?役所さんを使ってね、二枚目に対する恨みつらみを(晴らす)」と最後は冗談めかしながら、福山の新境地を引き出したことに手応えを示した。

 連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(12年10月クール、フジテレビ)を含めると、阿部寛(53)とは4回タッグを組んでいるが「やっぱり同世代というのがあるから、自分を投影しやすいんですよね」。2度目の福山は?と水を向けると「もっとイジメたい。イジメ甲斐がある。(福山は)追い詰められている時が魅力的だからじゃないですか。だから、福山さん、Mなんじゃないですかね。たぶん、関係としては、そういう関係ですよね」と笑いを誘いながら“S心”が動くことを明かした。

 自著「映画を撮りながら考えたこと」で「僕はキャスティングが決まった段階で、子役以外は声をイメージしながら脚本をリライトする」と脚本作りの一端を披露していたため、福山の声についても尋ねた。

 「すごいと思うのは、福山さんの声って誰にも似ていないですよね?声を聞いただけで『あっ、福山雅治だ』と、みんなが分かるのは、すごいことじゃないですか。非常に独特な声を持っていますよね。意外と、のどが太いんですよね」と分析。福山の声を生かしたシーンは?と問うと、半日かけて撮影を行いながらも編集でカットした“幻のシーン”があることを打ち明けた。

 「今回、使わなかったんですよね。福山さんの最終弁論を撮ったんですよ。すごい分量のセリフを覚えてもらって。法廷セットの裁判長の後ろの壁を外して、大型クレーンを入れて、福山さんのアップに寄っていく5分ぐらいのシーン。声も含め、素晴らしかったですよ。『いい最終弁論になったね』と役所さんにも言われたんですが…」

 名場面を本編から落とした理由は「普段、本当のことを言わない弁護士が、法廷で本音を言ってしまうといういう最終弁論だったんです。だけど、作品全体を考えると、法廷においては誰も本当のことを言わない方が(作品として)怖い。泣く泣く、そこは切ったんです。切った方が、あの弁護士がこれから抱えて生きていかないといけない荷物が重くなって、いいと思いました」と説明。当初の台本に最終弁論のシーンは書かれておらず「分量が分量なので、福山さんからは『さすがに覚えるのに2日は必要だと思います』と言われていて。分かりましたと言っていたんですが、全然書けなくて…。接見室のシーンを撮り終えて、ようやく書いて、その2日後ぐらいには撮影だったんです。ページ数?もう思い出したくもないぐらいの分量を覚えてくれて。福山さんも『結果的には(最終弁論のシーンをカットして)よかったですね』と言ってくれたんですが…」と苦笑い。作品のために“鬼”に徹したものの、福山に負担をかけたことを申し訳なさそうに語った。DVDの特典映像になることが期待される。

 福山とのコンビが再び傑作を生み出した。是枝監督は「また何かやりましょう、という話はしています。企画のキャッチボールは常に続けているので」と3回目のタッグを見据えている。

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