渡辺謙 スペインのシビアな観客が認めた伝統のお見送り

[ 2016年9月26日 05:30 ]

サンセバスチャン国際映画祭に出品された主演映画「怒り」の上映終了後、ロビーで観客の拍手の中、送り出される渡辺謙(左)と李相日監督

 俳優渡辺謙(56)の主演映画「怒り」(監督李相日)がコンペティション部門に出品されていた第64回サン・セバスチャン国際映画祭(スペイン)が24日(日本時間25日)に閉幕した。これに先立ち行われた同作の公式上映に、渡辺は李監督とともに参加。上映終了後、劇場内のロビーや階段に並んだ観客から大きな拍手と歓声に送り出され、「胸を打たれた」と感激した。

 劇場は約1800人の観客で超満員。上映後はスタンディングオベーションが続き、その後も観客が劇場内の階段やロビーに列をつくり、割れんばかりの歓声と拍手で渡辺と李監督を送り出した。

 「ブラボー!」

 シビアなサン・セバスチャンの観客が作品を認めた時にだけ行われる“お見送り”セレモニー。渡辺は何度も胸に手を当て、熱い思いが届いていることを表現。「いろいろな映画祭に参加しましたけど、こんなに感動したのは初めて。本当に胸を打たれました」と感激の面持ち。李監督も「この映画を作った全員に“よくやった”と言ってくれている気がした」と喜びをかみしめた。

 「怒り」は殺人事件の犯人が逃走する中、疑わしい男性と接する人々の葛藤を描く感動作。日本では17日の公開から6日間で興行収入5億6000万円を突破する好スタートを切り、同映画祭のコンペ部門に邦画で唯一出品された。

 同映画祭初参加の渡辺は、閉幕式にも李監督とともに出席。国営放送でスペイン全土に生中継されるほど注目度が高い閉幕式には、米俳優リチャード・ギア(67)がプレゼンテーターの一人として登場。宿泊先のホテルでギアと会った渡辺は「いつ来た?」「サン・セバスチャンを楽しんでる?」と談笑するなど、受賞こそ逃したものの、映画祭ならではの交流や雰囲気を楽しんだ。

 「怒り」はカナダで開催された第41回トロント国際映画祭に出品され、渡辺と李監督は今月10日(日本時間11日)に行われた公式上映に参加。さらに来月6日に韓国で開幕する第21回釜山国際映画祭で、アジアの巨匠監督の作品を上映する「ガラ・プレゼンテーション」に招待され、現地に駆け付ける予定だ。1カ月足らずの期間に北米、欧州、アジアと世界を股にかける渡辺は「映画を作る人間として、またこんな素晴らしい映画祭に出合いたい」と力を込めた。

 ≪つかみはバスク語≫渡辺は会見で「カイショー、ドノスティア(こんにちは、サン・セバスチャン)」と現地で話されているバスク語であいさつ。地元の記者の心をつかんだ後で「この映画を持って来られて、大変うれしく、誇りに思っております。人生と同じく複雑で悩ましい作品ですが必ず心のどこかに響く作品だと思っています。皆さんにどんなふうに受け止めてもらえるかとても興味があります」と、今度は流ちょうなスペイン語を披露し会場を沸かせた。

 ▼サン・セバスチャン国際映画祭 スペイン最大の規模を誇り、欧州ではカンヌ、ベルリン、ベネチアに次いで重要な映画祭とされる。今年は邦画ではアニメ作品「君の名は。」などが招待された。昨年は是枝裕和監督の「海街diary」が観客賞を受賞した。

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