「権兵衛」にニコニコ 橋之助 思わず神輿を担ぎたくなる優しさ

[ 2016年9月11日 11:00 ]

8月末に襲名披露公演の成功祈願で浅草寺を参拝した(右から)中村橋之助、中村国生、中村宗生、中村宜生の親子4人

 10月から八代目中村芝翫(しかん)を襲名する歌舞伎役者の中村橋之助(51)に親しげな雰囲気で「権兵衛」と呼びかけている男性がいた。特に変な顔をすることなく普通に返事をして談笑し始める橋之助。権兵衛? 本名は中村幸二だし、そんな名前の印象的な役柄を演じたこともないはずだし、ふしぎに思っていると「8月28日の歌舞伎座で、中村橋之助として最後の舞台を務めたんですよ。その次に舞台に上がるのは10月の襲名披露公演でしょ。だから1カ月は“名無しの権兵衛”じゃん、というわけです」。

 男性は小学校からの大親友。橋之助は今でも小学校時代の同窓会には積極的に参加している。気さくな人柄を示すエピソードだ。

 先日、テレビの収録で京都へ行った際には、伏見稲荷神社で「橋之助」の名前を書いて、鳥居を奉納した。「37年もお世話になった名前ですから」と手を合わせて、丁寧に拝み「これからもお守りください」とつぶやいた。一門代々の名前を名乗ることは歌舞伎役者にとって大変な名誉。生涯で名前が3つ4つ替わる役者もいる中、これほど前の名前に感謝を示す役者も珍しい。

 襲名披露公演では3人息子も同時襲名するが、歌舞伎の所作を教える時は厳しく指導をしても、普段の生活態度や歌舞伎人としての心得などを厳しく律するのは妻の三田寛子(50)。妻がひと通り叱った後に満を持してたしなめる「どっちかというと、おいしい役どころ」と笑顔を見せる。

 きっと生まれながら優しい心持ちなのだろう。そんな橋之助だからこそ、周囲に人が集まってくる。先月28日の“橋之助最後の舞台”では終演後、若手から大ベテランまで全出演者が楽屋に残って橋之助にねぎらいの言葉をかけた。

 中村勘三郎さん、坂東三津五郎さんの2大スターが早世し、周囲からけん引役として期待される橋之助だが、ぐいぐい引っ張るタイプ感じではなく、どちらかと言うと思わず神輿(みこし)を担ぎたくなるこの世界では珍しいタイプ。八代目中村芝翫が刻む新しい歌舞伎界の歴史に期待したい。

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2016年9月11日のニュース