「父のことを忘れないで」勘九郎、悲しみの口上

[ 2012年12月6日 06:00 ]

父との思い出を語る中村勘九郎(左)と七之助

中村勘三郎さん死去

 勘三郎さんの長男の中村勘九郎(31)は5日、京都・南座で公演中の「吉例顔見世興行」に悲しみをこらえて出演した。東京で父の最期をみとってから朝一番で京都へ舞い戻り、夜の部の六代目襲名披露口上では言葉を詰まらせながら「父のことを忘れないでください」と訴え、客席の涙を誘った。次男の七之助(29)は大粒の涙をこぼし、終演後に2人は再び都内の自宅へ戻った。

 「父勘三郎と母好江の間に生まれてきたことを誇りに思います」と語った後、言葉を詰まらせた勘九郎。あふれる思いをこらえるように顔をゆがめると、客席はもらい泣き。「頑張れ!」と温かい声援が飛んだ。

 口上で片岡我當(77)から「最高の親孝行者」と称賛された兄弟は「何もできておりません。悔しゅうございます」と胸中を吐露。「もっといっぱい(父と)お芝居したかったし、教わることは数え切れないほど。飲みに行きたい場所、飲みたいお酒…いっぱいあります」と父への思いは尽きなかった。

 だが「一番悔しいのは父。大好きな芝居がもうできないんです。皆さんの笑顔がもう見られない」と代弁。「父のことを忘れないでください」と締めると、この日一番の拍手を浴びた。

 最初は平静を保っていた七之助も、片岡仁左衛門(68)が「(勘三郎さんは)苦しみから解き放たれ、どこかその辺で見ていると思う」と言うと、涙があふれた。自身の口上では「去年に祖父(芝翫)、今年に父と偉大な2人を2年間で亡くし、どうしていいか分かりません」と心境を明かし「父にも言われました。兄の襲名、おまえは全力で支えろよと。今はこの言葉を支えに芸道に専念します」と気丈に誓った。

 終演後の会見で勘九郎は、10月中旬の病室での最後の会話を振り返った。父と兄弟、父の付き人の4人で「女の子の話とか、父らしい下世話な話をして笑ってました」といい、好江さんが戻って来たことを知らせると「寝たふりをした」とほほ笑ましい光景を明かした。

 兄弟2人は4日夜に京都から都内へ戻り、父をみとってから朝一番の新幹線に乗り、午前9時15分ごろ南座に到着。終演後、また都内の自宅へとんぼ返りした。6日も朝イチで京都へ向かい、父が生涯を懸けた歌舞伎の舞台に立つ。

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