惜しみて余りある急逝 中村勘三郎さん「いまを生きる歌舞伎」を追求

[ 2012年12月6日 06:32 ]

5日に死去した中村勘三郎さん

中村勘三郎さん死去

 57歳の若さで亡くなった中村勘三郎さんは、歌舞伎を知らない人をもとりこにした。プロ野球界でいえば長嶋さん、サッカー界でいえばカズのような大きな存在。舞台に登場した瞬間に劇場はパッと明るくなり、小気味のいい芝居に客席はいつも沸いた。

 集客力は群を抜き、まさしく“ミスター歌舞伎”といっていい看板役者だった。飾らない人柄でエネルギッシュ。華やいだ雰囲気は天性に負うところも大きかっただろうが、それに甘んじないのが勘三郎さんの凄いところ。資料を調べ上げて役の演じ方、見せ方を常に考えて工夫を凝らした。

 昨年11月21日に亡くなった落語家立川談志さんは「このままでは落語は滅びてしまう」と危機感を募らせて65年に「現代落語論」を書いたが、その談志さんは勘三郎さんの舞台を「4次元」と評して絶賛。勘三郎さんも談志さんの「イリュージョン落語」から刺激を受けていた。

 若者であふれる東京・渋谷の劇場「シアターコクーン」と串田和美さんと始めた「コクーン歌舞伎」では本物の水や泥を使い“誰も見たことのない歌舞伎”を一から作り上げた。仮設劇場「平成中村座」の公演は、米ニューヨークの観客も熱狂させた。さらに野田秀樹氏ら人気劇作家を口説き落として新作歌舞伎を上演したのも勘三郎さんの功績。「いまを生きる歌舞伎」を追求した。

 「アッちゃんのベビーギャング」(61年公開)など子役時代には映画でも活躍。その映画界をはじめ、他の分野の才人たちとの幅広い交流も糧とし、歌舞伎の枠を超えて活躍した。57年の生涯を生き急ぎのように疾走した勘三郎さん。惜しみて余りある急逝だ。

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