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[ 2010年2月20日 06:00 ]

昨年のホール・オペラ「ドン・ジョヴァンニ」のワンシーン※写真はすべてサントリーホール提供

 そして「コジ」。3部作の前2作がこれほどのメッセージを包含しているのだから、最後の「コジ」だけが、単なる軽薄な恋愛劇であるはずがない。他愛のないストーリーとはこうだ。2人の男性がそれぞれの恋人の貞節を確かめるために変装して、お互いのパートナーを交換する形で誘惑するが、女性はアッサリと口説き落とされてしまう。最後に「水戸黄門」の印籠のシーンよろしく男性が素性を明かし、女性はギャフン。2組のカップルは仲直りをしてめでたし、めでたしというものだが、そこには男女関係の移ろいの中から人間の心の本質が透けて見えてくるような気がしてならない。その本質とは何なのか。それは、実際にご覧になって考えていただきたい。

ここまで長々と述べて来た理屈はさておき、素直に楽しめるオペラ・ブッファであることも紛れのない事実だ。音楽的な特徴はモーツァルトの他のオペラに比べてアンサンブルが格段に多いこと。「ドン・ジョヴァンニ」など他のオペラではアリアとアンサンブルの割合はほぼ5対5となるように作られているが、「コジ」は2対3(アリア12曲、重唱19曲)の割合で配分されている。声と声、声とオーケストラが実に生き生きと絡み合い、随所に絶妙なハーモニーが生み出されるアンサンブル・オペラの傑作である。
なお、93年の「ラ・ボエーム」(プッチーニ)以来、17作(再演を含めると18作)の上演を重ね、多くのファンの支持を集めてきたホール・オペラは、今回の「コジ」をもって一応の打ち止めとなることが決まっている。今後、サントリーホールがどのような代替企画を打ち出してくるのかは、明らかになっていない。いずれにしても冒頭に述べたようにオペラ上演の新たなスタイルを確立したともいえる素晴らしいステージを体感できる最後の機会となる可能性もあるだけに、スポニチの読者、OTTAVAのリスナーの皆さまには足を運ぶことをお勧めしたい。

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2010年2月20日のニュース