【大学スポーツ】早稲田スポーツ新聞会

早稲田大学【番記者の目】「やるべきことをやる」を繰り返す日々/八木健太郎

[ 2017年10月12日 06:30 ]

1年秋にリーグ戦デビュー。素質の高さを早くから評価された(C)早稲田スポーツ新聞会
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 当会野球班では『番記者制度』が存在する。一年間の取材活動を通して担当選手を追いかけるのだ。この秋は春から担当選手を見続けてきた番記者が選手個人に焦点を当てた記事を執筆。各カード終了後に掲載していく。題して『番記者の目』。第2回は八木健太郎(スポ4=東京・早実)。

 「思いっきり振れるようになりましたね」。9−2で勝利を挙げた東大1回戦の試合後、八木健太郎(スポ4=東京・早実)はそう言った。心なしか、明るい表情に見えた。この日、2安打3打点1盗塁。東京六大学リーグ戦初本塁打も記録した。結果が出たことへの喜びもあったのかもしれない。それでも、いつも「たまたまですが」と枕ことばをつける男が、珍しく手ごたえを口にした。それは結果よりも、繰り返し唱えてきた『自分のスイング』ができていることへの喜びが大きいのだろう。

 早実高時代には、1年夏に投手として甲子園デビュー。2年で4番を打ち、3年では投打二刀流でチームの主軸を任された。八木を語るにあって、この華々しい球歴は欠かせない。その期待もあってか、入学後は早くから試合で起用された。代打を中心に1年秋から6試合に出場。2年時は分厚い外野の戦力に割って入ることができず出番を減らしたが、3年になり左翼のレギュラーを不動のものとする。三倉進(スポ4=愛知・東邦)と並んで、同期野手の出世頭となった。3年春、打率2割4分4厘。3年秋、打率2割7分6厘。爆発的な、とはいえないまでも順調な成長曲線を描いていったように見える。そして4年生になったことしの春、絶対的な信頼を得て『1番・右翼』の座を任された。

 だが、良いシーズンにはならなかった。打率2割3分1厘。チームの規定打席到達者8人の中で、最も低い数字。序盤は好調も中盤から大きく調子を落とし、再浮上することはなかった。「ここがダメだったから、練習を変える。またここがダメだったから練習を変える、となってしまって・・・」。試行錯誤するあまり、いつしか最も大事にする『自分のスイング』を見失った。それでも意識は好調時の結果を追い求める。「打とうとしすぎた」という当てにいく打撃を繰り返し、悪循環に陥った。1番打者としての役割を、といつも心掛ける八木は、「チームに貢献できなかったので、悔しい思いをした」と繰り返していた。

 50メートル走・5秒8、遠投・110メートル、高校通算36本塁打。大味な選手を想像させがちなフレーズをそろえる八木は、その実、誰よりも実直に基礎を追い求める選手だ。むやみに盗塁を試みることもなければ、力任せな送球をすることもない。逆方向に一発を放つほどの長打力を秘めるが、「ホームランバッターではないので」と何よりも重視するのはチームへの貢献だ。八木自身はこれを認めたことはないが、チームメートは最も練習をする選手として八木の名を挙げる。こと私生活においても、「人として尊敬します。寝坊とかは絶対にしないので」という小藤翼(スポ2=東京・日大三)の言葉に代表されるように、人格を評価する声が多い。取材の場が設けられればいつも一番に姿を現すところからも、それが確かなことをうかがわせる。

 「自分のやるべきことをやらなかったらまぐれでも起きないと思うんですよね。だからやらないと不安なんですよ。打ってても明日打てない不安がありますし、打てなかったら調子悪いなと不安になります。だから練習でも自分のやることをやって、(私生活でも)部屋の掃除をするとか、物を大切にするとか、そういうことを大切にしていますね」。大事にする言葉として『人事を尽くして天命を待つ』を挙げた後、こう述べた。迫る不安を押しのけ結果を得るため、どんな時も自身がするべきことを一日、また一日と積み重ねる。尊大な言葉は絶対に口にしないし、基礎をおろそかにもしない。八木の芯を表している言葉なのかもしれない。そんな姿に、チームメートや指揮官も信頼を寄せるのだろう。

 最後の舞台となる今季、八木は春と同じく『1番・右翼』で開幕を迎えた。残念ながら不調から始まるシーズンとなり、一時はスタメンから外れることに。速球に詰まる、当てにいく打撃になる。春の不振が、再び顔をのぞかせた。しかし、同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。「練習はオープン戦からやってきた通り」「焦らずやることをコツコツと重ねて」「いつか使ってくれると信じて、その時にチームに貢献しよう」。悪い要素の修正に固執することをやめ、理想とする『自分のスイング』を追い求めた。すると、1番に返り咲いた立大2回戦でいきなりの3安打。さらに冒頭の東大1回戦、そして2回戦とコンスタントに安打を重ねた。2回戦ではすべての打席で、ボールを芯で捉えている。ぶれない『自分のスイング』は猛威を振るい、課題の要素はいつしか姿を消した。

 現在の打率は2割8分6厘。復調しているとはいえ、まだまだ満足いかない数字のはずだ。早大の1番打者を担い、「同期の中でも一番の主軸でしょ」(熊田睦、教4=東京・早実)と評されるほどの選手。八木がさらに調子を上げれば、チームの勝利は格段に近づく。そんな期待も込めて「調子が上がってきているのでは」と尋ねるも、返ってきたのは「次また打てるかは分からないですけどね」という苦笑交じりの答え。どこまでも、大きなことは言わない。だが、そうして一歩、また一歩と道を踏み固めてきた選手だ。その結果が問われる最後のシーズン。残された試合も少ない。「やるべきことをやるだけ」。そう繰り返して、積み重ねる日々で磨いた『自分のスイング』を信じ、勝利の立役者に――。「チームに貢献できた」と言い切る姿を、最後に臨みたい。(早稲田スポーツ新聞会 記事:喜田村廉人)

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