【内田雅也の追球】名月の下の決心 乱れた青柳…岡田はないものねだりなどしない

[ 2023年9月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―5DeNA ( 2023年9月29日    横浜 )

<D・神>4回、青柳は林に四球を与える(撮影・大森 寛明)
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 今の阪神は勝利にこだわっているわけではない。ただし消化試合にもテーマはある。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージへの最終テストと言える先発登板で、青柳晃洋は4回4失点と結果を出すことができなかった。

 実に7四死球を与え、投球数は110球に及んだ。制球力の問題である。けん制悪送球に、打者の背中を通る暴投もあった。大荒れだった。

 注目したのは対戦した打者のべ24人のうち、3ボール2ストライクのフルカウントがのべ8人にも上ったことだ。うち5人に四球を与えた。つまり粘り負けである。

 最近はフルカウントが目立っていた。慎重に慎重に……とコーナーを狙い、わずかに外れるボール球が増えていった。

 それでも前日28日まで今季、フルカウントの打者52人のうち、四球は11個(死球1)にとどめていた。残りの打者を40打数7安打、被打率・175としのいでいた。

 フルカウントをアメリカの野球記者はよく「フルハウス」とポーカーの役にたとえる。3ボール2ストライクがスリーカードとワンペアというわけだ。「フルハウス」できゅうきゅうとして、やられたのである。

 不調の今季にあってDeNAは8勝中5勝を稼いでいた。監督・岡田彰布は「だから投げさせた」とCSに向けたテストを認めていた。さすがにこの投球ではCSでの起用に二の足を踏む。

 この夜の敗戦をCS前哨戦と見れば、青柳は乱れ、相変わらず主軸打者に打たれ、どうも後味はよくない。ただ、岡田は「まだ日にちがあるのに、そんなことまで考えてないよ」と笑っていた。

 この日は岡田が前回監督の2005年に優勝を決めた記念日だった。18年前の懐かしい思い出である。亡父・勇郎の誕生日でもあった。

 横浜スタジアム上空では雲の切れ間で中秋の名月が見え隠れしていた。

 「名月をとってくれろと泣く子かな」と小林一茶の句にある。同様にアメリカには「クライ・フォー・ザ・ムーン」という表現がある。直訳すれば「月がほしいと泣く」。現実には無理なこと、ない物ねだりをするといった意味になる。

 名より実を取る岡田はないものねだりなどしない。楽観的、希望的な観測もしない。常に「今の戦力を見極めて戦うだけ」と心に決めている。=敬称略=(編集委員)

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