NY在住通信員が見たジャッジVS大谷MVP争い グラウンドに漂う緊張感の差を同列に扱っていいかどうか

[ 2022年11月18日 09:49 ]

大谷(右)とジャッジ(AP)
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 大リーグ機構(MLB)は今季の両リーグMVPを発表し、アはリーグ新記録の最多62本塁打を放ったヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(30)が選出された。15勝、34本塁打を記録して史上初めて投打で「規定」に到達したエンゼルスの大谷翔平投手(28)は次点だった。ニューヨーク在住の本紙・杉浦大介通信員(47)が米野球記者協会(BBWAA)に属する記者の投票で選ばれる今回のMVP投票の結果を分析した。

 今季のエンゼルス・大谷が見せた投打両面の活躍は文句のつけようがなく、どんな種類の栄誉も受け取るに値する。その一方で、どれほど熱心な大谷ファンでも、今季はヤンキースのジャッジもまたとてつもないシーズンを過ごしたことに誰も異論はないだろう。

 ヤンキース、エンゼルスのそれぞれの試合を少なからず現場で取材した記者として、グラウンドに漂う緊張感に天と地ほどの差があった両チームのゲームで残された成績、活躍を同列に扱うことはできないというのが正直な思いだ。

 MVP。すなわち「最も価値がある選手」の判断基準は常に意見が分かれるところだ。個人成績がチーム成績に及ぼせる影響には限りがあり、所属チームの順位が個人賞選定の決め手になるべきではないという議論は理解している。それでもシンプルに、優勝の希望がないチームでの活躍より、チームの成功のために負けられない状況下でたたき出された好成績の方がやはり価値は上と考えられてしかるべきだ。

 ニューヨークの記者たちと“オフレコ”で話をしていても、「“最も価値がある選手”は強いチームから選ぶべき」という声が大多数だった。ニューヨーク在住だからといって地元選手のジャッジに肩入れしているわけではなく、「大谷のために最も目立った個人パフォーマーといった賞を設ければ」といった意見も度々、聞いた。おそらく、他の多くの都市の記者もほぼ同じ論調だろう。そんな背景があったから、大谷が2年連続MVPを逃したのは驚きではなかった。

 エンゼルスは昨季も大きく負け越しながら、大谷が満票でMVPを獲得したのだから、今季に選ばないのは矛盾があるという見方もあるのかもしれない。ただ、昨季、大谷の最大のライバルだったブルージェイズのゲレロと比べて、今季のジャッジは個人成績、チームの強さの両方で1段も2段も上だった。

 ヤンキースは必ずしも順調に地区優勝まで到達したわけではなかった。ジャッジがサヨナラ本塁打を今季4本記録したように勝負強さを発揮し、故障者も多かったチームを押し上げたことには価値があった。全体に打撃成績が低下している年に62本塁打を打ち、リーグ記録を塗り替えたことも驚異的に映る。

 ジャッジ、大谷がともに超越的な成績を残したのなら、「勝利=価値」という古典的な判断基準通りにジャッジがMVPでいい。大谷には少なからず不公平かもしれないが、もともと野球は環境、チーム構成などさまざまな面で公平ではない条件で行われ、その中で優劣を争うもの。個人賞の選定も完全に公平に見ることなど不可能で、そうする必要もないと考える。(杉浦 大介通信員)

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2022年11月18日のニュース