大リーグのMVPは記録だけじゃない 投票を左右する“ストーリー性”が重要

[ 2022年9月3日 02:30 ]

エンゼルス・大谷翔平
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 大リーグのMVPは全米野球記者協会所属の記者30人による投票で決定する。同会員で昨年まで毎年、MVP、サイ・ヤング賞などいずれかの投票を担当してきたスポニチ本紙・奥田秀樹通信員(59)が選考基準について解説した。

 MVPを投票する判断材料は、かつては打率や打点など古い打撃3部門の数字だった。最近ではOPS(出塁率+長打率)やWAR(勝利貢献度指数)といった新しい指標が重要視される。しかし、レンジャーズ担当のベテラン記者、エバン・グラント氏は「ストーリー性がMVPを考える上でとても重要だ。それは今も昔も変わらない」と語る。

 同氏が例として挙げたのは、1941年。56試合連続安打のジョー・ディマジオ(ヤンキース)が、打率4割、2冠王のテッド・ウィリアムズ(レッドソックス)を抑えた。「ウィリアムズは最後の4割打者だが、1900年以降、41年までに4割は13度も達成されていた。連続試合安打は当時、社会的に大きな関心を集めた」。01年MVPのイチローについても「WARなどのデータではジアンビ(アスレチックス)が上だった。でも初めて日本人野手がメジャーに挑戦し、首位打者と盗塁王に輝き、チームも116勝を挙げた。素晴らしいストーリーだった」と指摘する。

 ストーリー性は主観によるところが大きい。私は今回は投票者ではないが、こう考える。ジャッジが61年のマリスの記録を破るのは特別なことだが、ステロイド疑惑があるとはいえ、その記録は98年にマグワイアとソーサによって破られた。今回の挑戦は社会的な注目度で言うと、98年には及ばない。ジャッジの特筆すべき点は、飛ばないボールで、たった一人だけ打ち続けていることだ。一方、大谷は30本塁打を打ち、OPSは.900に接近し、打者で一流を維持しながら、サイ・ヤング賞候補にも名前が挙がっている。

 どちらのストーリーがよりゾクゾクさせ、そして歴史的に重要なのか?30人の記者がそこをどう考えるかでMVPは決まる。

 《98年PO導いたソーサが受賞》近年、MVPレースに注目が集まったのは、「世紀の本塁打争い」が社会現象となった98年。マグワイアが初めて70本の大台を記録したが、66本のソーサが選ばれた。チームをプレーオフに導いたことが評価された。翌99年は投手と打者の争い。圧倒的な成績で勝利数、防御率、奪三振の3冠に輝いたマルティネスを、ア・リーグ捕手史上初「3割100打点100得点」をマークしたロドリゲスが13票上回った。17年は2年連続首位打者のアルテューベが受賞。新人記録の52本塁打を放ったジャッジは01年イチロー以来の新人王とMVPのダブル受賞を逃した。

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2022年9月3日のニュース