【内田雅也の追球】西勇の完封に「独り言」と「裏口」効果 「自分との対話」と「バックドア」活用

[ 2022年8月20日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―0巨人 ( 2022年8月19日    東京D )

<巨・神>5回、岡本和を見逃し三振に抑えた西勇(撮影・河野 光希)
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 マウンド上の阪神・西勇輝を記者席にあるモニター画面で見ると、よく何ごとかつぶやいている。時折、口の動きで分かる時がある。「もう一回」とサインのリピートをねだったり、「低い?」と判定について自問自答したりしている。ただ、もっと複雑で長いくちびるの動きは読めない。

 独り言だ。セルフトークと呼ばれる。人は自分とも頻繁に会話している。禅僧・南直哉(じきさい)は『自分を見つめる禅問答』(角川ソフィア文庫)で<「私」とか「自分」と呼ばれる存在(あるいは現象)が、そもそも対話的構造を持っている>と記している。

 野球ではこの自分との対話を有効に使いたい。映画『さよならゲーム』で強打の“クラッシュ”デービス(ケビン・コスナー)が打席で「思い切りひっぱたけ」「次は内角か、変化球か」「大丈夫だ。おまえなら打てる」……とプラス思考の言葉でつぶやき、本塁打を放つシーンがある。

 西勇は独り言で考えをまとめ、自分を励ましていたのだろう。時に笑い、時に眉をひそめ、自分と闘いながら投げた。そして、完封したのだ。

 投球で目についたのは「バックドア」だ。右投手であれば、右打者の外角にボールからストライクになるシュート(ツーシーム)を投げる。打者はボールと判断して見逃す。バックドアは「裏口」という意味だ。表玄関ではなく裏口から忍び込んでくるというわけだ。

 5回裏は岡本和真をフォークで追い込み、最後は外角シュートで見逃し三振。6回裏は坂本勇人を外角シュートの連投で追い込み、最後も外角シュートで空振り三振に切った。坂本はボール気味でも手を出してきた。

 投手板の最も一塁寄りを踏み、さらにアウトステップして投げる西勇のシュートは角度がついた特徴的な球だ。もちろん、本来の右打者内角に切れ込む使い方もあった。ただ、この夜に限っては「裏口」を意識させ、巨人の打者を混乱させていた。まともなスイングをさせなかった。

 捕手が梅野隆太郎から約1カ月ぶり(7月13日巨人戦以来)に坂本誠志郎に代わったこともあろう。試合前に十分話し合ったと西勇も語っている。配球に新鮮味が加わっていた。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月20日のニュース