【内田雅也の追球】羅針盤なき航海 クローザー未定で大海原にこぎ出すのは不安だが、期待でもある

[ 2022年3月21日 08:00 ]

オープン戦   阪神1-2オリックス ( 2022年3月20日    京セラD )

<オープン戦、オ・神>9回2死満塁、伏見への暴投でサヨナラ負けを喫し、ボウ然とする小野(右)(撮影・坂田 高浩)
Photo By スポニチ

 野球のダイヤモンドは大海原だ、という説がある。野球殿堂入りのノンフィクション作家、佐山和夫が近代野球の父、アレクサンダー・カートライトの生涯を追った著書『野球とクジラ』の「はじめに」でアメリカ野球学会(SABR)での論議を紹介している。

 船乗り(打者)は海に出て港(塁)に寄りながら無事に母港(本塁)に帰ること(得点)を目的とする。「船乗りの思想」と会員が話していた。

 ゲーム同様、シーズンも航海に似ている。大海原に出て優勝というゴールを目指す。長い航海である。試合は毎日ある。穏やかな日もあれば、悪天候の荒波の日もある。

 日々の航海(試合)でかじ取りするのは船長(監督)である。その羅針盤となるのが必勝継投の形、特に最後の幕引きを務めるクローザーだ。

 ところが、阪神は開幕直前の今もクローザーを決め切れないでいる。オープン戦最終戦でも、後味の悪い結果となった。

 1―0の9回裏、若い湯浅京己、岩田将貴で2死三塁と勝利まで「あと1人」としたが、小野泰己が3連続四球の押し出しで同点を許し、暴投でサヨナラ負けとなった。投げた14球すべてボール球という乱調だった。

 クローザー候補の新外国人カイル・ケラーはブルペンにいなかった。首脳陣は開幕から当面は最後を任せる気はないようだ。賛成だ。来日が遅れたこともあり、本調子ではない。パワーカーブやスラッターの切れ味が鈍い。空振りが取れるようになるまで待ちたい。

 代役はこの日8回裏に起用した岩崎優だろう。試合展開次第では9回裏はない。最終戦の試合前から8回裏の登板を告げていたはずである。

 つまり、阪神は今季、羅針盤なきまま船を大海原に出す。もちろん不安だが、期待でもある。

 大リーグ・ロイヤルズの球団幹部だったシド・スリフトは毎年開幕前「さあ、また新しいシーズンがやってくる」と勇んだ。ロジャー・エンジェル『球場へ行こう』(東京書籍)にある。「どんなことが起こるのか知る者はいない。研究に研究を重ね、プランを立てることはできるが、必ずわれわれにとって未知なるものが待ち構えている。そいつがベースボールのだいご味なんだ」

 「大海説」を紹介した佐山は色紙に添える言葉を「野球無限」と書く。「どこまで掘り下げても分からない」のがまた魅力である。 =敬称略= (編集委員)

続きを表示

2022年3月21日のニュース