阪神・荒木が父に見せた「しばしの夢」 7年前からクビを覚悟していた33歳が示した「感謝」の思い

[ 2021年10月6日 08:00 ]

阪神・荒木
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 <記者フリートーク 阪神担当・遠藤 礼>

 昼過ぎ、スマホが短く震えた。今では珍しいショートメールは「荒木郁也の父です…」という文面から始まった。11年前、ドラフト5位で指名された阪神・荒木の連載記事を担当することになり、ご両親に話をうかがった。都内のホテルにある喫茶店で父・達也さんと母・正枝さんは、何時間もかけて、産声をあげた時からタイガースに指名されるまでの息子の22年間を語ってくれた。別れ際「郁也をよろしくお願いします」という達也さんと握手をした。活躍した時の記事をこの2人に届けたい…勝手な使命感を背負って背番号58を追いかけてきた。

 あれから11年が経った。終わってみればスポニチで「荒木郁也」の名が紙面を飾ったことは、ほとんどなかった。15年5月28日の楽天戦でプロ初の3安打6出塁と躍動したのがハイライト。ただ、その前年の9月に荒木は母・正枝さんに電話で伝えていた。「今年でクビになるかもしれないから、鳴尾浜に来てほしい。ユニホーム姿を目に焼き付けて」。数日後、本当に両親は2軍戦を見に来てくれた。その時の達也さんの顔が荒木は忘れられなかった。「親父の顔がとにかくひどくて…。頬はこけてるし、顔色も悪くて。母からそういう話を聞いて相当ショックなんだと」

 俊足と内外野を守れる万能性を武器に、1軍では途中出場から渋い存在感を放ってきた。4年目でクビを覚悟しながら、そこから7年必死にしがみついてきた。普段から口数の少ないクールな男も「オヤジと母は、いつも応援してくれてるんで」と恩返しの思いを絶やすことはなかった。ついに来てしまった戦力外通告。冒頭のショートメールはこう続いた。「光り輝く選手生活とはなりませんでしたが、しばしの夢を見せてもらいました」

 身を削りながら、静かに見守ってきた父に、息子が見せた夢には「感謝」の2文字が浮かび上がった。

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2021年10月6日のニュース