【内田雅也の追球】「先攻」を生かす初回の「打て」 阪神優勝の命運握るビジター連続9試合

[ 2021年10月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5ー2DeNA ( 2021年10月5日    横浜 )

<D・神>1回無死一塁、中野は右中間に先制の適時二塁打を放つ(投手・坂本)(撮影・大森 寛明)
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 野球は後攻がわずかに有利とされている。統計上、後攻の勝率は5割3分ほどある。ホームで地元の応援という要素がある。9回裏や、さらに今季はないが延長戦でサヨナラ負けの心配がない。また先に守備につき「守りからリズムをつくる」展開に持ち込める。

 一方、先攻が有利な側面もある。初回(1回表)の攻撃だ。プレーボール直後、まだ先発投手の状態が落ち着かない立ち上がりを攻められる。

 通算317勝の鈴木啓示(本紙評論家)でさえ「何年やっても、立ち上がりの調子は投げてみないと分からなかった」と話している。それほど投手は不安なのだ。

 阪神の快勝はそんな初回の攻撃が焦点だった。4点先制は効いた。

 近本光司が中前打。続く中野拓夢が右中間二塁打して、わずか5球で先制した。2番にバントで1点を取りに行くのではなく、「打て」(強攻策)でビッグイニングを狙う。1死を与え、相手投手に息をつかせるのを嫌った。先攻の有利さをいかしたベンチの作戦が大量点を呼んだのだ。

 中野の犠打17個はいつの間にかセ・リーグ最多となっている。8月までわずか2個で、9月に入って急増した。優勝争い本番を迎えたと、ベンチの作戦が変わっていたのだ。

 これまで何度か書いたが、リーグ優勝8度の名将、西本幸雄は「大事な試合でベンチが堅い作戦をとると選手が硬くなる」と話している。何しろ、あの「江夏の21球」のあった1979(昭和54)年の日本シリーズ最終第7戦。1点を追う9回裏無死一塁でヒットエンドラン(結果は二盗)のサインを出した監督である。とにかく、バントを命じて、打線が硬直化してしまうのは避けたい。

 ただ、初回に限れば、9月19日巨人戦(三犠打)以降犠打は記録されていない。25日巨人戦(捕邪飛)以降、バントを試みてもいない。この夜で初回近本出塁のケース、5度連続で「打て」なのだ。好調だった今季前半の姿勢に立ち返っていると言えるだろう。

 この夜は「勝負」と位置づける東都遠征の大事な初戦だった。DeNA、ヤクルト、巨人とビジター9試合で先攻が続く。カギを握る初回の攻撃で示した積極性、攻撃性に期待したい。

 監督・矢野燿大は試合後、記者団に「拓夢が最高の形でつなげ、広げてくれた。1点を取りに行くことももちろんある」と答えていた。打つか、送るか。一方に偏っては大切な自在性も失う。柔軟性を示した談話はこれでいいのだ。

 もう一つ。2死一、三塁から重盗仕掛けで奪った4点目は効いた。一塁走者・佐藤輝明がおとりとなり、捕手の二塁送球・挟殺の間に三塁走者・小野寺暖が生還する。新人と2年目の若いコンビでできた。

 年に1度あるかないかのプレーで沖縄キャンプで練習していた。春の練習が秋に実ったとは喜ばしいではないか。

 さらにもう一つ。初回に4点。3回に4番・大山悠輔ソロ。その後の追加点がなかった点への不満は欲張りというものかもしれない。先発・青柳晃洋に久々8月24日以来の勝ち星がつき、救援陣にはそれぞれホールドとセーブがついた。

 先に引用した鈴木啓示はリーグ最多完投9度、10試合連続完投勝利のパ・リーグ記録も持つ。完投が命だった。ただ、近鉄で監督になってからは選手気質の違いを知り、「先発、中継ぎ、抑えと皆がそれぞれ仕事をして勝つのがいいのかもしれない」と考えるようになった。つまり、この夜は快勝だったのである。 =敬称略= (編集委員)

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