【内田雅也の追球】泥と汗と涙の激闘へ 9・3は阪神・矢野「引退表明」の日 再び三つどもえV争い

[ 2021年9月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神ー中日(降雨中止) ( 2021年9月2日    甲子園 )

目に涙をため現役引退の決意を語る阪神・矢野燿大(2010年9月3日、リッツ・カールトン大阪)
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 矢野燿大は会見中、何度も目頭をおさえた。2010年9月3日、リッツ・カールトン大阪での現役引退表明である。

 当時41歳だった。「これで終わるわけじゃない。いろんな勉強をして、またファンの皆さんのところに帰ってきたい」

 あの涙の会見からきょう3日で丸11年となる。約束した通り、監督として再びユニホームを着てグラウンドにいる。

 矢野引退発表の日、チームは広島遠征中。試合には敗れたが、首位にいた。2位中日に1・5ゲーム差、3位巨人には2ゲーム差という三つどもえの優勝争いだった。

 最後までもつれ、上位3強それぞれにマジックが点灯、そして消灯する熾烈(しれつ)な展開だった。最終的に阪神は1ゲーム差の2位、優勝は中日にさらわれた。

 当時、矢野はチームに迷惑をかけたくないとしたうえで、用意された引退試合に向け、練習を積んでいた。そして<ある思いを秘めていました。それは一塁へのヘッドスライディングです>と著書『考える虎』(ベースボール・マガジン社新書)に記している。

 <苦楽をともにしてきた仲間と戦える最後の時間をどのように過ごすのか……>と考え<最後の儀式>としてヘッドスライディングし<甲子園でユニホームを真っ黒にしたい>と思ったのだ。

 それは矢野が現役時代に心がけた全力プレー、あきらめない不屈の心を示すものだった。実際は引退試合や2軍での最終戦でもその機会は巡ってこなかった。

 時代は巡り、今の阪神も巨人、ヤクルトと三つどもえの優勝争いを展開している。甲子園で、きょうから巨人と3連戦、週明け7日からはヤクルトと3連戦と大事な直接対決を迎える。

 決戦に臨む阪神の選手たちに望むのは、矢野が思い描いたヘッドスライディングの姿勢である。泥にまみれたい。

 高校球児のようだと言うなかれ。「毎日試合をするプロでも最後の場面では甲子園球児に戻ります」と元オリックス球団代表・井箟重慶からもらったメールを保存している。2014年、オリックスがあと1勝届かず2位になった時に届いた。優勝したソフトバンク監督・秋山幸二が泣いていた。王貞治や広岡達朗から聞いた話として「平然としているように見える監督も手のひらは汗びっしょりだよ」とあった。

 さあ、泥と汗と涙の激闘である。 =敬称略= (編集委員)

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