「フィールド・オブ・ドリームス」の世界を忠実に再現 5.5億円を投入したMLBの戦略

[ 2021年8月14日 02:30 ]

ア・リーグ   ホワイトソックス9―8ヤンキース ( 2021年8月12日    ダイアーズビル )

映画にちなみ、トウモロコシ畑から出てくるホワイトソックスとヤンキースの選手ら=12日、米アイオワ州ダイアーズビル(UPI=共同)
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 大リーグは12日(日本時間13日)、野球映画の名作「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)のロケ地で、史上初めて試合を開催した。主人公を演じた俳優ケビン・コスナーも登場し、映画の世界を忠実に再現。計8本塁打がトウモロコシ畑に飛び込んだ熱戦は、ホワイトソックスがヤンキースに9―8で逆転サヨナラ勝ちした。現地で取材した杉浦大介通信員がMLBの戦略をリポートする。

 人口わずか4000人のアイオワ州ダイアーズビル。最寄りの空港から果てしなく広がるトウモロコシ畑の一本道を車で1時間15分走ると、映画「フィールド・オブ・ドリームス」のロケ地に到着する。道中、ほとんど人は見かけない。見かけるのは牛だけ。その田舎感に圧倒された。

 映画で使われた球場のすぐ隣に収容人員7911人の球場が特設され、2つはトウモロコシ畑でつながれている。観客もその道を通って球場入り。まるで映画の世界にいるように感じられたはずだ。

 試合開始前にはコスナーが登場。「ここは天国なのかな?」と有名なセリフで幻想的に呼び掛けた。20世紀初頭のデザインを模したユニホームを着用したホワイトソックス、ヤンキースの選手たちが映画のワンシーンのようにトウモロコシ畑から登場すると、大歓声が上がった。映画の音楽も流れ「フィールド・オブ・ドリームス」の世界観を見事に再現してみせた。

 アイオワ州で大リーグの試合が行われるのは初めて。当初は昨年8月に予定されていたが、コロナ禍で1年延期となった。報道によると、MLBが球場建設に投じた金額は約500万ドル(約5億5000万円)。中継には、4台のスローモーションカメラを含む40台のテレビカメラが投入された。その背景にはMLBとFOX局との25年に及ぶ巨額契約の中でも「レギュラーシーズンでは最高額」と伝えられたばく大な広告収入の恩恵が存在する。美しくはあっても、アイオワらしい素朴さは薄れた球場内で「お金のにおいが凄いな」と思わず漏らしていたファンもいた。

 それでもヤンキースのアーロン・ブーン監督が「これまでで最高の舞台だった」と話すなど、両軍のスター選手たちはスマホで記念撮影。関わった全ての人が感動し、楽しめるステージをつくり上げたMLBの努力は評価されるべきだろう。プレミア化したチケットは、転売サイトで平均1400~1500ドル(約15万4000~約16万5000円)の値が付くほどの人気だった。

 ロブ・マンフレッド・コミッショナーは「来年も開催する」と明言した。MLB関係者によると、すでに多くの球団が参加を希望し、伝統と人気があるカブスは内定しているという。ファンを喜ばせ、興行的にも大成功が確実のイベントは1試合限りでは終わらない。米国の国民的娯楽であるベースボールと映画が融合された夢の一戦は、新たな伝統になっていきそうだ。

 ▽フィールド・オブ・ドリームス 1989年公開の米国映画。ケビン・コスナー演じるアイオワ州の農民レイ・キンセラは「それをつくれば、彼が来る」という不思議な声を聞く。周囲の反対を押し切り野球場をつくると、シューレス・ジョー・ジャクソンら伝説の選手たちがトウモロコシ畑から現れる。その中に若き日の父親を見つけてキャッチボールをするという、野球を題材に夢や希望、親子の絆を描いた幻想的な作品。アカデミー賞3部門ノミネート。

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