【内田雅也の追球】「甲子園打法」の二塁打 ライナー心がけ、「ギャップ」を抜く阪神打線

[ 2021年6月19日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―1巨人 ( 2021年6月18日    甲子園 )

<神・巨(10)>2回、無死二塁、先制の適時二塁打を放ったサンズ(撮影・成瀬 徹)             
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 巨人先発C・C・メルセデスを3回無死で降板させた阪神打線で際立つのは2回裏、実に4本の二塁打集中である。

 佐藤輝明右翼線(ライナー)、ジェリー・サンズ左中間(ライナー)、梅野隆太郎三塁線(ゴロ)、近本光司左中間(ライナー)と、いずれも低い打球。アメリカでいうギャップ(外野手の間)を抜く打撃だった。

 現役時代「打撃の神様」と呼ばれた川上哲治(巨人)が著書『遺言』(文春文庫)でジョー・ディマジオ(ヤンキース)の言葉を紹介している。大リーグ最長、不滅と言われる56試合連続安打を記録したディマジオは本塁打王も2度獲得している。

 「わたしはホームランを打つための練習などしていない。好打者の狙いは常にジャストミートにある。いつも結果としての二塁打を心掛けるのだ。ジャストミートを心掛けていると、コースが甘かったり、高めにきた球はホームランに結びつく。従って、わたしの狙いはいつもライナーで、二塁打を放つことにある」

 川上はディマジオにならい<ホームラン狙いのバッティングをやめ、アッパースイングからレベルスイング――水平打法へと切り替えた>。代名詞はそれまでの「テキサスの哲」から「弾丸ライナー」に変わっていった。

 「フライボール革命」の影響でアッパースイングが目立つ。だが、阪神の打撃陣が目指しているのは「ライナー打法」ではないだろうか。

 今季、阪神の二塁打数は98本(61試合)となった。DeNA112本(66試合)、巨人108本(65試合)、中日100本(64試合)に次ぐセ・リーグ4番目である。平凡に映るが、本拠地・甲子園の外野が天然芝という点を勘案すれば、注目に値する。

 広島が75本(60試合)でリーグ最少なのは、打撃低調に加え、本拠地マツダスタジアムが内外野総天然芝という点が影響している。

 球場形態による野球の差異について、ジョージ・F・ウィル『野球術』(文春文庫)に<最大の問題は天然芝か人工芝かという一点に帰着する>とある。打球が速い人工芝球場の方が二塁打が多くなるのだ。

 同書ではさらに統計分析の元祖、ビル・ジェームスは<球場が選手のハートを形づくり、ひいてはチームの士気を左右するとまで考えている>とある。球場に応じ、いかに打撃するかというのは哲学の問題でもある。

 今季の阪神は本塁打もよく出ている。チーム66本塁打は巨人の79本に次ぐ。ただ本来、甲子園ではさく越えが難しい。二塁打数や本塁打数の結果が示しているのは、本拠地球場に見合った打法が根づいてきている証拠だと考えたい。

 最後に一つ。7回裏に左中間をライナーで割ったジェフリー・マルテの一打は、この夜5本目の二塁打になる打球だった。ところが、マルテは二塁で憤死した。スライディングを怠る凡走だった。

 直後の守りから交代となった意味は理解しておきたい。もう打席が回らぬ終盤で、守備固めや休ませる意味もあったかもしれない。

 ともあれ、全力プレーを怠った反省を忘れてはならない。ライバル巨人に大勝し、緩む心を引き締めたい。監督・矢野燿大の考え方が浸透しているチームにあっては、誰もが分かっているだろう。=敬称略=(編集委員)

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