ダルビッシュの言葉が全てを…あってはならない不正投球めぐる「度を越す」対応

[ 2021年6月17日 09:00 ]

パドレスのダルビッシュ(AP)
Photo By AP

 度を越す人間が迷惑を掛ける――。

 パドレスのダルビッシュが今月9日に語った言葉が全てを示しているように思う。「どうしても度を越す人間が出てくる。サイン盗みも、一定のラインを越える人が出てきた。(他の選手に)タイトルだったり契約金で迷惑をかけてしまう」。大リーグ機構(MLB)が21日(日本時間22日)から取り締まりを厳格化する、投手による粘着物質の不正使用問題だ。

 7年前の14年4月。「度を越す」場面を目撃した。ヤンキースのピネダ(現ツインズ)が松ヤニの不正使用により、10試合の出場停止処分を受けた。登板中のマウンドで首筋にべっとりと茶色い光沢が広がっており、あまりにも分かりやすい「現行犯」だった。相手チームの抗議を受けて退場処分に。クラブハウスで報道陣に囲まれたピネダは涙目で「間違いを起こした」などと謝罪した。松ヤニや粘着性のある日焼け止めクリームなどの滑り止めとしての使用は暗黙の了解とされているが、やり方には限度がある。

 今回は、一部選手に不自然なほどのボールの回転数の増加が見られたという。使用が疑われているのは松ヤニではなく、重量挙げや車いすラグビーなど、他のスポーツで滑り止めとして使われている「スパイダー・タック」。強い粘着力があるとされ、とあるサイトでは13・99ドル(約1540円)で売られていた。

 さらに、今回は、取り締まる側のMLBの「度を越す」対応が、問題を複雑化させているのは明らかだ。ダルビッシュも「ボールが問題」と指摘するように、そもそもMLBは滑りやすい公式球を長年、放置してきた。ローリングス社の1社独占による製造や、デラウェア川の泥でこねるという伝統の仕上げ方法を続けることが、果たして今の時代に即しているのか。これらの問題に向き合わず、負担を投手のみに、しかもシーズン中に押し付けるという「悪手」。投手たちは成績の低下だけでなく、故障のリスクも背負う。

 度を越す不正投球を取り締まるのは大賛成だ。しかし、度を越す取り締まりでシーズンに水を差すことは、あってはならない。(記者コラム・大林 幹雄)

続きを表示

2021年6月17日のニュース