【内田雅也の追球】「感謝」を力に換えた阪神 大量守備固めで1点差逃げ切り 一丸と采配の妙

[ 2021年5月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-2DeNA ( 2021年5月9日    横浜 )

<D・神(9)>9回1死、桑原の打球をさばく木浪(撮影・大森 寛明)
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 阪神は9回裏の守りで投手を含め6人の選手を入れ替えた。8回の二塁手を含めると7人。先発メンバーで残っているのは捕手と中堅手だけという守備固めだった。

 これが当たった。1死から三遊間寄りの難ゴロを木浪聖也が好プレーで刺した。最後はベース寄りゴロを植田海が好捕、一塁手・陽川尚将がハーフバウンドを好捕。リプレー検証の末、アウトというフィナーレだった。

 リードは1点。クローザーのロベルト・スアレスといえど1人でも走者が出れば、3番に回り、行方は分からなかった。

 野球七不思議に「代わった所に打球が飛ぶ」がある。巨人V9監督、川上哲治は「だから、代えるんじゃないか」と語ったのを覚えている。この日の阪神のように多くを代えれば、当然そこに打球は行く。監督・矢野燿大も承知のうえで交代させていたわけである。

 拙守のあった中野拓夢やジェフリー・マルテ、好守備もあった佐藤輝明の信頼度が低いのではなく、より安全な策をとったのだ。その時々の状況に応じての選手起用である。控え選手のレベルも高く、厚くなった選手層に支えられた用兵の妙だった。

 先に書いた川上はNHK解説者時代に語った有名な言葉に「この選手は親孝行だから大成しますよ」がある。巨人・淡口憲治への言葉だった。実際にテレビで聞いた。

 川上の人間観を阪神でも監督を務めた野村克也が称賛している。著書『巨人軍論』(角川書店)にある。<親孝行とは言い換えれば感謝の心である。感謝の心こそが人間としての出発点であり、成長していくうえでもっとも大切なものだ>。

 同点二塁打を放ったジェリー・サンズが一塁から激走生還した佐藤輝明に「グッジョブ」と感謝していた。ちなみに佐藤輝の一塁から本塁到達タイムは手もとの計測で10秒75。俊足と小回りのきいたベースランニングが光っていた。

 決勝2ランを放った糸井嘉男は直後の守備に就く際、スタンドに深く頭を下げていた。

 アクシデントで早期降板となったジョー・ガンケルは日本人のようにグラウンドへの一礼が日課にしている。3回無死二、三塁を無失点でしのいだ投球。そしてリードした梅野隆太郎と交わしたガッツポーズには相手への感謝の思いがにじみ出ていた。

 小学4年生のとき、母をがんで亡くしていた梅野は誰よりもこの日の活躍を誓っていたことだろう。安打はなくとも好リードと勝利時の笑顔は天国に届いたはずである。

 <感謝にはすごい力がある>と元阪神の下柳剛が著書『ボディ・ブレイン』(水王舎)に書いている。<試合後、まずすべての人に対して感謝することを心がけた>と裏方や友人まで思った。「自分は周囲の人に助けられている。一人じゃない」と思うと<大きな精神的支えを得られた>。

 矢野が就任時から繰り返し説いてきた一丸を示す姿勢でもある。

 母の日だった。球場はピンク色と母親への感謝に満ちていた。母親に限らず、誰かに、そして新型コロナウイルス感染拡大のなかでも野球ができること自体にも感謝する。阪神はそんな心を力に換えていたのだろう。=敬称略=(編集委員)

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