【内田雅也の追球】いい塩梅の料理 お股ニキ助言の「最適バランス」でゴロを量産した阪神・藤浪

[ 2021年3月13日 08:00 ]

オープン戦   阪神3ー3西武 (7回表降雨コールド) ( 2021年3月12日    甲子園 )

<神・西>追球用 4回1死一塁、ブランドン(左)を二ゴロ併殺に仕留める藤浪(撮影・北條 貴史)
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 もう説明の必要もないほど有名なプロウト(プロのシロウト)、お股ニキの主張や視点を貫いているのは「最適バランス」ではないか。

 2019年3月に出した初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)冒頭に野球を<相反する要素の両立が多くの場面で求められる>と記している。<0か100かの二元論からなるべく脱却し、最適なバランスを保っていくことが求められるのだ>。

 さらに田中角栄の「この世に絶対的な価値などない」という名言を引用している。「娑婆(しゃば)はそれほど単純じゃない。黒と白の間に灰色がある。どっちともいえない。真理は中間にある」

 全くだ。野球に、いやこの世に、絶対的な正解などない。投球もいい頃合いのフォーム、力加減、制球、配球……を自分なりに見つけねばならない。160キロ台の剛球だけでなく、制球力、さらに変化球とのバランスが求められる。

 そのお股ニキが昨年2月20日、キャンプ地の沖縄・宜野座で阪神・藤浪晋太郎と初対面した時のことを覚えている。本紙阪神担当・遠藤礼が仲介していた。球団本部長・谷本修に「藤浪は本来、ゴロ投手です」と話していたのを隣で聞いた。「シュート回転する直球はツーシームのようでゴロを期待できます」

 あれから1年と少し、開幕投手の指名を受けて甲子園で先発した藤浪が見せたのは、まさに「最適バランス」の投球だった。立ち上がり、初回の3失点からすぐに立ち直った点も評価したい。

 2回から5回まで、12アウトのうち11アウトをゴロで奪った。「フライボール革命」を地で行く西武打線の打球が外野にも飛ばなかった。

 ゴロ10個(併殺打1を含む)の決め球(結果球)は7球まで直球。残りはカッター(スライダー)2球、スプリッター(フォーク)1球だった。

 この結果を球威(だけ)で押し込んだとみては冒頭で書いたオール・オア・ナッシングの二元論に陥る。結果に至る配球がある。特徴的なのは初球だ。2回表の源田壮亮はカッター、3回表の山川穂高、栗山巧にはスプリッターで見逃しストライクを奪っている。

 スプリッターについてお股ニキは「もっと勇気持ってカウント球に使ったらどうですか」と藤浪に助言していた。2月20日付の本紙インタビューで明かしている。

 今の藤浪はこの助言を生かしている。「今まで食わず嫌いしてたというか。スプリットって、浮いたら打たれるイメージが強かった。価値観として変わってきたので、自分の引き出しにしたい」

 140キロ台後半のスプリッターは150キロ台速球と見分けがつかない。いわゆる「ピッチ・トンネル」を形成できる。

 「食わず嫌い」の料理を口にして、新たな料理法を知ったのだろう。日本語には塩梅(あんばい)という言葉がある。元は調味料の塩と梅酢の加減である。西武打線を料理した藤浪のさじ加減がきいていたわけである。=敬称略=(編集委員)

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2021年3月13日のニュース