【藤川球児物語(34)】09年WBC連覇 守護神ダルビッシュに自らの経験伝授

[ 2020年12月17日 10:00 ]

09年、WBC連覇を果たし、ダルビッシュ(左)と抱き合って喜ぶ藤川

 心にポッカリと穴が開いていた。08年シーズンの巨人との激闘、V逸、そしてCS敗退、監督・岡田彰布の辞任。いろんなことがありすぎた。

 後任となった監督・真弓明信は11月に甲子園で藤川球児と話をした。時間は約90分。相当に長い話し合いだった。「ある程度たてば、やるぞの気持ちになるものだが、なれなかったみたい。やりきった感みたいなものも感じた」と真弓が語っていた。前を向くには時間が必要だった。

 新たなチャレンジへのきっかけは09年のWBCだった。監督・原辰徳の強いプッシュもあった。12月の契約更改では「傷ついた心を動かすきっかけになった。計り知れない責任感もある」とモチベーションを高めた。

 大会連覇に向け、球界を代表する顔ぶれがそろった。イチロー、同い年の松坂大輔、そしてダルビッシュ有、田中将大…。なかでもイチローの話は刺激になった。今年9月の引退会見で「イチローさんの生き方をずっと勉強している。爪のアカをせんじて飲みたいくらい尊敬しています」と打ち明けたほどだ。

 サンディエゴでの2次ラウンドではキューバ、韓国戦に抑えとして連投し、存在を誇示した。キューバ戦では相手4番、5番を連続三振。「結果がすべて。勝つことがすべて」と1次ラウンドから4試合に登板、無失点で4強入りに貢献した。

 あと2勝。気持ちを高めてロサンゼルスに乗り込んだが、首脳陣は大一番の抑えはダルビッシュと決めた。準決勝の米国戦、一緒にブルペンでスタンバイしながら、コールされたのは藤川ではなかった。決勝の韓国戦でも3―2で迎えた9回に登場したのはダルビッシュ。同点を許したが、延長10回にイチローの決勝打で連覇が決まった。

 投げたい。投げるものだと思っていた。だが、決まった以上、チームの一員に徹するだけ。藤川は抑えの経験がないダルビッシュに調整法、気持ちの高め方を授けた。「球児さんも僕が投げていい思いはしない。でも本当にたくさんのことを教えてもらった」とダルビッシュ。藤川のプロ意識を表す証言だった。 =敬称略=

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2020年12月17日のニュース