「二流のまま止まるつもりない」メッツ新オーナー・コーエン氏、チームを、ニューヨークを変えるのか

[ 2020年11月18日 09:00 ]

メッツの本拠地シティ・フィールド
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 今オフ、ニューヨークで最も存在感がある大リーグのチームはヤンキースではない。資産家のスティーブ・コーエン氏が、北米プロスポーツ史上最高額の約24億ドル(約2500億円)でメッツを買収。おかげで、これまでヤンキースの「弟分」的な存在だったメッツがメジャー屈指の話題チームになっている。

 メッツは過去18シーズン中、15度もプレーオフを逃すという長期の低迷を続けてきた。前筆頭オーナーのフレッド・ウィルポン氏がバーナード・マドフの巨額詐欺事件の被害に遭ったこともあり、2012~2018年はリーグの給料総額トップ10からも陥落。ニューヨークという大都市に本拠地を置いているにもかかわらず、「ビッグマーケット・チームらしくないビッグマーケット・チーム」という、ありがたくない定評を勝ち得てしまった。

 そんなイメージも、推定資産約146億ドル(約1兆5200億円=米経済誌フォーブス調べ)という、とてつもない実業家がオーナーになったことで変わっていくのだろう。新オーナーに就任直後、コーエン氏はブロディー・バンワガネンGMをはじめとする前体制の球団幹部を一掃。その一方で、5~30%の給料削減を余儀なくされてきたフルタイム従業員のサラリーを、新型コロナウイルス感染拡大前の額に戻すことを発表した。ヘッジファンドで財を築いた大富豪は、早くも「金を使うべきところを理解している」と好評を勝ち得ている。

 何より地元ファンを喜ばせているのは、ニューヨーク出身のコーエン氏が幼少期から大のメッツファンだったことを強調していることだ。10日のオーナー就任会見では、今回の買収はファンのためであると改めて述べていた。

 「何万人もの人を喜ばせることができる素晴らしい機会だ。野球で金儲けをしようとは思っていない。私には“Point 72(ヘッジファンド会社)”があり、お金は稼げる。ここではファンのために何か素晴らしいものを積み上げ、勝ちたいだけなんだ」

 もちろん、こうして元メッツファンの大金持ちがオーナーになったからといって、即座の成功が約束されるわけではない。メッツは早速トレバー・バウアー投手(今季レッズ)、JT・リアルミュート捕手(同フィリーズ)、ジョージ・スプリンガー外野手(同アストロズ)ら今オフの目玉FA選手の獲得候補球団に挙がっているが、コーエン氏は「市場で大盤振る舞いをするつもりはない」とも述べている。まだ新GMは決まっておらず、どんな方向性でチームづくりをするのかは未知数。他チームに比べてやや遅れ気味といわれてきたデータ分析部門の強化まで含め、チーム内に着手すべきことが山ほどあるのだろう。

 ただ、元々メッツはジェイコブ・デグロム投手、ノア・シンダーガード投手、ピート・アロンソ内野手、マイケル・コンフォート外野手、ジェフ・マクニール外野手といった数多くのタレントを抱えているチームでもある。そんなチームのオーナーに資産、競争意識、チーム愛を持った人物が就任したのであれば、ファンならずとも今後に期待を寄せたくもなる。

 「二流のまま止まるつもりはない。私はそういう人間ではない。今後3~5年の間にワールドシリーズで優勝できなかったとしたら、少し残念なことだと思うだろう」

 そう豪語するコーエン氏はメッツを、ニューヨークを変えるのか。ヤンキースが毎年のようにプレーオフに進み、それに加えてメッツも強いシーズンで、地元はより一層盛り上がる印象がある。この街には両雄が並び立つのに十分な深みがある。2000年、ヤンキースとメッツが激突する史上初のサブウエー(地下鉄)・ワールドシリーズが実現してからもう20年。来季、久々にニューヨークには「ベースボール・シティー」の熱気が戻ってくるのかもしれない。(記者コラム・杉浦大介通信員)

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