【内田雅也の追球】自らを救った打・走・守 光った西勇の頭脳 阪神「史上初」の4連勝へ幸先よし

[ 2020年9月5日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5-4巨人 ( 2020年9月4日    甲子園 )

<神・巨(11)>2回1死一、三塁、中島がバントを処理するも西勇(左)の走路と重なる(撮影・北條 貴史)
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 映画にもなった住野よるの小説『君の膵臓(すいぞう)をたべたい』(双葉社)で、主人公の女子高生・咲良が「僕」との出会いについて言う。「偶然じゃない。私たちは皆、自分で選んでここに来たの」

 自己啓発の元祖と言われるジェームズ・アレンも<人生に偶然という要素は全く存在しません>と書いている=『「原因」と「結果」の法則』(サンマーク出版)=。

 ならば、阪神が5―0から5―4と1点差で逃げ切れたのも必然だったのだろう。エース・西勇輝の考えや思い、監督・矢野燿大の作戦や継投の決断など、自ら選択を重ねた結果だった。

 西は2回裏1死一、三塁で一塁前にセーフティースクイズを決め、貴重な2点目を奪っている。

 一、三塁でのセーフティースクイズは防御が難しい。一塁手はベースにつき、チャージができない。早めに前進すれば、一塁走者が二塁を陥れるからだ。打者は一塁前に転がすのが定跡となる。

 阪神はキャンプで幾度もこの攻防を練習していた。当時、コーチ陣は「防ぐには一塁手の早いチャージが必要だが、よほどでないと、無条件で二盗を許す守備はやりづらい」と話していた。だから、1、2球目の西のバントが一塁側へのファウルとなってもスリーバントを仕掛けたのだ。

 ただし、三塁走者はジャスティン・ボーアだった。キャンプでこの練習をしていた記憶がない。三塁ベースコーチ・藤本敦士が盛んに耳打ちしていた。

 西は3度目のバントをプッシュ気味に一塁前に転がした。さらに一塁に走る際、一塁手・中島宏之のタッチを誘うように立ち止まり、ボーアの本塁生還を助けていた。頭脳的な走塁だった。

 投球も6回まで1安打無失点の好投だったが、7回表にはつかまった。2点を失い、なお1死一、三塁。代打・重信慎之介に3ボール0ストライクとなった。

 この難局を切り抜けたのも頭脳と、そして好守である。3ボールでも「打て」だと読み、シュートでいった。重信は狙いの直球に見えただろう。外に切れて沈む球に食いついたゴロは投手正面。強いゴロだったが、巧みなグラブさばきで好捕、1―6―3併殺でピンチを脱したのだった。

 巨人戦自身11試合目で初勝利の西はバント、守備、走塁、そして頭脳で自らを救ったのだ。

 ゲーム差は大きく、追撃には4連勝がほしい。2014年のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ(東京ドーム)での4連勝は記憶に新しい。

 試合前に調べてみた。1936(昭和11)年に始まる「伝統の一戦」。レギュラーシーズンで巨人との4連戦は、3日で4試合や2日で4試合を含め過去16度あった。阪神側から見て3勝が4度、1勝が7度、0勝が5度(引き分けを含む)と、4連勝したことは一度もない。逆に4連敗は3度あった。

 歴史的な「史上初」の快挙に挑む気概も見えた勝利だったと書いておきたい。=敬称略=(編集委員)

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2020年9月5日のニュース