記事にできなかった内海の告白 折れなかった強い心に最大限の敬意を

[ 2020年9月5日 09:30 ]

移籍初勝利の内海はウイニングボールを左翼席にむけ高々と掲げる(撮影・沢田 明徳)
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 記事にはしなかった。いや、できなかった。昨年6月。改装前の西武第2球場で、2軍調整中の西武・内海と話す機会があった。左前腕の故障の状態が芳しくなく、試合で投げられない日々。苦しい胸中を聞いたが、取材ノートにメモをしただけで終わっていた。

 「ブルペンでは直球とチェンジアップはいい。でもスライダーが投げられない。(ひねる動きで)投げると痛いんです。やっぱり僕にとってスライダーは(投球の)肝。直球とチェンジアップだけでは通用しない」

 本格的な夏が近づくグラウンド。額に汗を浮かべた内海から「スライダーが投げられない」と聞いた時は驚いた。対右打者で外角に逃げるボールがチェンジアップなら、内角に食い込むのがスライダー。その片翼を失っていることになる。

 「病院にも通っている。やれることは全部やっている。前腕は2度痛めて、その組織が弱くてなかなか回復しない。苦しいですよ。野球人生でこんなに苦しいのはなかったですね。投げられるのに、投げられないんですから。神様お願い、ですよ。初めて神頼みをしています」

 投げられるのに、投げられない。投手としての苦悩の深さは想像にかたくない。その思いを応援している西武、そして巨人ファンに伝えるべきでは、とも思った。ただ、記事にしたところでファンを無用に心配させ、内海本人を焦らせるだけ。いつか、きっと書ける日が来る。そう思いながら1年が過ぎた。

 「手術するなら、お医者さんにはじん帯再建(トミー・ジョン)手術になるかも…と言われている。じん帯は伸びきったまま投げていたんで。でも、そうすると復帰まで1年。八方ふさがりですよ」

 それでも内海は昨年11月に左前腕の手術を受けた。トミー・ジョン手術ではなく「左前腕・筋腱修復術」。そして今月2日のロッテ戦。実に743日ぶりとなる移籍後初白星を挙げた。

 投球はテレビで見た。巨人時代から最大の武器だったスライダーで相手打者を牛耳るシーンを見た。投げたくても投げられなかった日々。そこから一歩ずつ着実に、粘り強く進んできたのだろう。折れなかった内海の強い心に、最大限の敬意を表したい。(記者コラム・鈴木 勝巳)

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2020年9月5日のニュース