日本プロ野球よ、6・19に「ヒルルクの桜」となって咲き誇れ

[ 2020年5月26日 05:30 ]

 【君島圭介のスポーツと人間】ドクター・ヒルルクは「ヤブ医者」と呼ばれていた。尾田栄一郎氏の傑作『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)の中で、あの、可愛らしい青い鼻のトナカイ、トニートニー・チョッパーの飼い主として「ドラム島編」に登場するキャラクターだ。

 ヒルルクは言う。「“病気の国”の治療などできるもんかと人は言うだろうが、それは違う」。もとは大泥棒だった彼が、医者を目指したきっかけは、死の宣告を受けた自らの病を直した奇跡だった。ヒルルクは30年間研究を続け、その奇跡を再現する「治療法」を発明した。

 新型コロナウイルスの感染拡大で開幕を延期していたプロ野球が、6月19日の開幕に向けて動きだした。4月に政府が緊急事態宣言を発令して以降、日本は「病気の国」だった。ウイルス感染の脅威はもとより、活動自粛で経済的に傷ついた人たち、「自粛警察」に代表されるような心に鋭いトゲが生えた人たち。ただ、この国でほとんどの人たちは「“病気の国”の治療などできるもんか」とは言わなかった。心をひとつにして、ここまで辛抱強くこぎ着けた。

 プロ野球の開幕は、多くの国民の我慢や努力の上に成立する。この国の病気が完治した訳ではない。感染の脅威は消えていない。その中で、いち早く開幕を決断したプロ野球が果たすべき責任は重い。球場でクラスターでも発生しようものなら、再び「巣ごもり」生活に逆戻りだ。

 ヒルルクの病を治したのは桜だった。山いっぱいの鮮やかな桜が奇跡を起こした。今年は桜が咲いたかどうかさえ覚えていないが、その間に東京五輪が延期され、高校野球の春夏甲子園大会や高校総体の中止などが次々に発表されことは忘れようがない。
 プロ野球の開幕は、ただのスポーツイベントではない。バケモノ扱いされてトナカイにも人間にも疎まれたチョッパーを癒やし、圧政に苦しんだドラム島の民を解放したヒルルクの奇跡と同じ。新型コロナウイルスと戦うこの国で、象徴的な意味を持つ。
 最後にもうひとつ、ヒルルクの言葉を引用したい。

 「この世に直せねェ病気なんてねェのさ」

 ヒルルクが作り上げた奇跡のように、6・19、プロ野球は「病気の国」を元気にする使命と義務がある。(専門委員)

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2020年5月26日のニュース