甲子園史上最強ブラスバンドの激闘を覚えているだろうか

[ 2020年5月15日 09:00 ]

昨年の選抜高校野球で大阪桐蔭のブラスバンド部とコラボする東邦のアルプス席
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 【君島圭介のスポーツと人間】高校野球のない春が終わろうしている。今年のセンバツは史上初の中止となってしまったが、平成最後の甲子園だった昨春の名勝負を覚えているだろうか。

 石川昂弥(現中日)の2本塁打などで決勝戦を制し、30年ぶり3度目のセンバツ優勝を飾った東邦のことではない。星稜・奥川恭伸(現ヤクルト)の超高校級の投球でもない。スタンドの白熱した戦い。東邦・大阪桐蔭―習志野戦のことだ。そう、応援団同士のドラマチックな決勝戦が忘れられない。

 東邦のマーチングバンド部が米国遠征のため、センバツの開幕に間に合わなかった。大会前半は大阪桐蔭吹奏楽部が「代打」で友情応援し、決勝戦は帰国した同校のマーチングバンド部と合同演奏した。全国屈指の名門校がタッグを組んだのだ。どこもかなうはずがない。誰もがそう思った。

 ところが、相手アルプス席に「美爆音」の異名を誇る習志野が立ちはだかった。習志野の吹奏楽部は200人を超える部員数を誇り、温かく滑らかな演奏は「習高サウンド」と称えられている。それがひとたび甲子園のスタンドに陣取れば、阪神ファンの大声援を聞きなれている近隣住民から「苦情」が出るほどの爆音を鳴り響かせる。

 おそらく甲子園の歴史上でも最高峰の、震えが止まらないほど感動的な演奏合戦だった。野球では東邦が勝ったが、こちらは互いに一歩も引かずに引き分け。大会の応援団優秀賞も両者で分け合った。

 ブラスバンドの演奏は高校野球の大きな魅力だ。定番曲「アフリカン・シンフォニー」は様々にアレンジされ、出場校とセットで楽しめる。チャンスに流れると逆転を呼び込む効果で「魔曲」として知られるのは智弁和歌山の「ジョックロック」。龍谷大平安の「怪しいボレロ」は重低音で繰り返されるスローなテンポが相手チームに極度の重圧を与える。かつてPL学園が奏でた「ウイニング」などは、さながら野球ドラマのテーマ曲のようだった。

 観戦しながら思わず口ずさんでいる。高校野球を応援していたはずが、気付けばこちらが逆に元気をもらっている。球児のプレーに感情移入するうちに、スタンドの応援を少しだけ分けて貰っているのだろう。

 新型コロナウイルスの影響で、高校総体を始め、高校スポーツイベントの中止が余儀なくされている。高校野球は夏の甲子園開催の判断をギリギリまで待っている。今、高校生のスポーツイベントを行うことが適当なのか、それは分からない。

 でもこんな今だからこそ、困難だとは分かっているが、甲子園にこだまする、それぞれの高校の魂がこもった「美爆音」を聞きたい。そう願う。(専門委員)

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