【内田雅也の猛虎監督列伝(25)~第25代 中村勝広】「涙の味覚」を知り、暗黒期に光る“準”優勝
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1990年代が「暗黒時代」と呼ばれるのは後のことだ。当時を戦う者は皆、懸命に光を求め、前を向いていた。
40歳で監督に就いた中村勝広は監督付広報・南信男らと苦い酒を飲み、ロマンを追った。石原裕次郎の『勇者たち』を歌った。サビの「最後に勝つ者に なろうじゃないか」より「今は涙の味覚(あじ)を知れ」の歌詞を好んだ。
90年開幕戦。先発起用の中西清起が完封、岡田彰布に2本塁打して9―0の完勝だった。だが、2人の手を掲げる定番の笑顔撮影にも中村の表情は硬かった。先行きに不安と恐怖を肌で感じての船出だった。
連敗が相次ぎ6月26日から最下位が指定席となった。大リーグ復帰のセシル・フィルダーに代わり獲得した前年本塁打王、ラリー・パリッシュは本塁打、打点の2冠争いのなか引退を決意した。神戸の自宅を訪ねた本紙・中根俊朗に「もう動けないんだ」と古傷・十字靱帯(じんたい)断裂の左膝を見せた。8月27日を最後に戦列を離れた。
最終成績は首位巨人と実に36・5ゲーム差がついた。本社専務・三好一彦が10月に球団取締役、12月に球団社長に就き、再建に乗り出した。
迎えた91年。開幕5連敗の最下位から一度も浮上できなかった。
極め付きは6月13日ヤクルト戦(神宮)での球団史上最悪となる10連敗である。試合後、定宿サテライトホテル後楽園で中村は「責任を取らせてください」と進退伺を出すと三好は突き返した。「責任の取り方は他にもある。君と私は志を一つにした戦友じゃないか」
深夜、銀座の穴蔵のようなバーで中村は俳優・奥田瑛二と隣り合わせた。同学年で意気投合した奥田が言った。「中村さん、あんた、いい目してるよ。まだ大丈夫だ」奥田にも長い下積みと不遇に耐えた経験があった。
球団初の2年連続最下位に沈んだオフ、三好は甲子園球場のラッキーゾーンを撤去した。広い甲子園で中村と「守りの野球」を推し進めた。
腹をくくった3年目92年。キャンプ打ち上げの朝、中村は安芸タイガータウンを独り、歩いて回った。「これで最後か……」との感傷と「いい練習ができた」との手応えが入り混じった。
下馬評に最下位が並ぶなか快進撃が始まった。
過去2年連続ウエスタンリーグ首位打者の亀山努は新背番号00で駆け回った。開幕2戦目で代走、4戦目に2番で起用すると、ヘッドスライディングでチームを活気づけた。同年創設のセ・リーグ月間GOGO賞の初代受賞者で理由の1つは「犠打0の2番」だった。
4月25日、中日戦(ナゴヤ)で岡田に好機で回ると負傷で先発落ちの亀山を代打で使った。不振とはいえスター選手に若手を送る用兵は「大げさに言えば監督生命をかけた」。放送席にいた早大先輩の広岡達朗が解説で援護してくれた。
トーマス・オマリーが骨折で戦列を離れると、新庄剛志を抜てきした。開幕時に1軍40人枠にもいなかった3年目20歳は5月26日の大洋戦(甲子園)で三塁で先発起用すると、いきなりプロ初本塁打。オマリー復帰後も中堅で使い続けた。
6月28日、抑えの田村勤が初めて救援失敗すると、7連敗で貯金を使い果たしたが、この年は粘り強く盛り返した。
仲田幸司、中込伸、湯舟敏郎、野田浩司ら先発陣が安定し、新人・久慈照嘉、外野転向の八木裕が堅守で支えた。
語り草となるのは9月11日のヤクルト戦(甲子園)。同点の9回裏、八木の左翼越え打球は本塁打から二塁打と訂正され「幻のサヨナラ本塁打」となった。中秋の名月が頭上に上り、日付も変わった午前0時26分、延長15回で引き分けた。
19日大洋戦(甲子園)で7連勝し、2位巨人に3ゲーム差、3位ヤクルトに3・5差をつけた。次は21日から17泊18日、13試合の秋のロードだった。中村は「甲子園に大きな土産を持ち帰りたい」とファンに優勝を約束する発言を行った。
ワープロのフロッピーディスクに優勝原稿を抱えて旅立ったVロード。若いチームは金縛り状態で3勝10敗。逆にヤクルトに2ゲーム差をつけられ戻った10月10日の甲子園。目の前でヤクルトの胴上げを見せられた。監督も若く「中村自身の力不足」と語った。
深夜の店で促され「今はこんなに悲しくて」といつもの中島みゆき『時代』を歌ったのを覚えている。「そんな時代もあったねと いつか話せる日がくるわ」
甲子園都ホテルに泊まった中村は翌朝、部屋から見えた球場前の長蛇の列に傷心がいえた。「中村監督 ありがとう」の横断幕に心が震えた。この最終戦に勝ち2位。“準”優勝と言えた。観客動員285万3000人と優勝した85年を上回る球団新記録となった。
再建への足場はできたはずだが、結果は伴わなかった。野田を放出し松永浩美を獲得した93年は5月に首位に立ったが後退。94年は新外国人大砲ロブ・ディアーが期待外れだった。
相次ぐ補強失敗にも中村は「“獲ってきた人のこともある”と不満は口にしなかった」と当時の球団幹部が言う。「涙の味覚」を知り、気配りが過ぎていた。
座右の銘に「尽力施求」がある。現役引退時、叔父が目の前で書いてくれた。「尽くして力まず、施して求めず」が指導者としての姿勢だった。見返りを求めない忍耐と辛抱を胸に刻んでいた。
95年。監督連続6年は球団最長となった。1月17日、阪神淡路大震災に見舞われ、中村の家も全壊した。地元ファンのためにと誓った気概は空回りした。開幕5連敗に始まり、泥沼にはまった。
中村は7月8日に辞意を固め、13日に三好に伝えた、と後に明かした。「戦友」も慰留をあきらめた。オーナー(本社会長)・久万俊二郎が「采配はスカタン」と痛烈批判したのが18日。発言が引き金となったのではなく、既に球宴前での辞任は決まっていた。監督交代の度に問題化していた本社の圧力も、黒幕の陰もなかった。あしき伝統が途絶えたことになる。
最後の指揮となった23日の広島戦(甲子園)。本紙に手記を寄せ<タテジマのユニホームに誇りを持ってほしい>と記した。6年前の就任会見で訴えかけたのと同じ姿勢だった。=敬称略=(編集委員)
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