【内田雅也の追球】「入り方」と「決め方」――7失点の阪神バッテリーが得た教訓

[ 2020年3月8日 08:00 ]

<神・日>ベンチで梅野(右)と言葉をかわすガンケル(撮影・北條 貴史)
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 阪神監督・矢野燿大が東北福祉大から中日に入団した1991年当時、捕手の基本を学んだのが2軍バッテリーコーチだった金山卓嗣(現名・仙吉)だった。ある日、ウエスタン・リーグの試合後、白紙のチャート(配球図)を差し出された。

 「1回から9回まで、各打者の配球を全部思い出して書いてみろ」

 現役引退後に出した著書『考える虎』(ベースボール・マガジン社新書)にある。

 将棋のプロ棋士(いや一定の棋力がある者)は初手から投了までの棋譜を暗記している。麻雀(マージャン)でもプロ雀士は相手も含めたすべての捨て牌を覚えているらしい。小島武夫と阿川弘之の対談で読んだ。

 だが、野球の配球をすべて記憶するのは難しい。かつて、オリックス打撃コーチ時代の新井宏昌が自軍打者の配球を試合後、すべて答えたのに驚いたことがある。

 さて、金山が出した問題に、矢野は懸命に解答していくのだが、やはり、どうしても途中で思い出せない場面が出てきたそうだ。

 金山は矢野に助け舟を出すように言った。

 「いいか、コツがある。まずは初球と結果球だけ覚えるようにしろ」

 <プレーボールから一番、二番、三番……と順にたどっていったのでは、まずすべてを答えることはできません。でも、バッターごとに初球の入りと、最後の1球を覚えておけば、その打席を思い返すことはそれほど難しくないのです>。この試合後の宿題を矢野と金山は2軍遠征先でも行い、習慣としていた。<私にこの作業を課すことで、金山さんは根拠のあるリードを徹底させようとしたのです>。

 つまり、捕手(あるいは投手を含めたバッテリー)が打者を打ちとろうとする時、カギとなるのが初球と結果球なのだ。

 その点で7日に先発し2回まで7失点した新外国人ジョー・ガンケルと捕手・梅野隆太郎には教訓的な試合だった。

 浴びた8本の安打のうち、初球が3本、そして2ストライクと追い込んでからが4本もあった。何とも特徴的である。「入り方」と「決め方」を誤った結果だろう。

 矢野は先の著書で阪神時代、監督・星野仙一から<準備することと意識することの大切さを口酸っぱく言われました>として<特に2ストライクと追い込んだ後、あるいは外国人に対する初球には厳しかった>と振り返っている。初球と2ストライク後の決め球を打たれるのは<準備と意識付けを徹底していれば防げるもの>としている。

 ガンケルの制球の良さには定評があり、8年間マイナーで暮らした米国時代、9イニング平均の四球がわずか1・49個だった。だいたいミットを構えた所に来る。リードで何とかできる投手だと言えるだろう。

 ならば、この日の8安打は反省に生かせる。降板後、梅野とガンケルがベンチ内で長く話し合う光景がモニターに映っていた。=敬称略=(編集委員)

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2020年3月8日のニュース