【内田雅也の追球】「偶然」を信じる姿勢――連夜、同じ形で1点差負けの阪神

[ 2019年7月10日 08:30 ]

セ・リーグ   阪神0―1巨人 ( 2019年7月9日    甲子園 )

3回、ガルシアがバント安打を決める
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 阪神が失った決勝点は前夜のVTRを見るようだった。同点の8回表1死。三塁走者は代走・増田大輝。打者が遊撃左にゴロを転がし、好スタートの増田が生還する。

 三遊間に打つ練習をしているわけもなく、打球コースは偶然だろう。

 「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」である。江戸時代、肥後平戸藩主で剣術の達人だった松浦静山が『剣談』に書き残した。阪神でも監督を務めた野村克也も好んで使った。

 この「不思議」「偶然」に気づくことが重要だと心理学者、河合隼雄が語っている。

 心理療法で患者が治る時、「外へ出たら一億円落ちていました、というくらいのことがよく起こる」と話している。作家・小川洋子と対談『生きることは、自分の物語をつくること』(新潮文庫)にある。「道に物なんか落ちていないと思ってる人は、前ばっかり見て歩いているから、いい物がいっぱい落ちていても拾えない」

 この夜、3回裏1死一塁でオネルキ・ガルシアの送りバントは当たりが強すぎたが、投手と前進する三塁手の間を抜け、内野安打となった。

 「箕島バント」を思った。1979(昭和54)年の甲子園春夏連覇を達成した箕島高(和歌山)が得意とした。主に右打者が前進する一塁手と投手の間にバットの芯で強く転がして内野安打にする。幾度も成功して好機を広げ、得点した。

 このバントが生まれたのは偶然だった。79年春の選抜に出場する前、和歌山県営紀三井寺球場で練習していた際、森川康弘のバントが強すぎた。失敗かと思ったが、投手も一塁手も捕れずに内野安打となった。監督の尾藤公が「これは使える」とひらめき、その後、コースに白線をひいて、練習を積んだそうだ。

 決勝打のゴロが2夜続けて遊撃左に飛んだのは偶然でも、巨人の1点をもぎ取る姿勢は本物だったと認めるしかない。

 ただし、一つ書いておきたい。阪神もやり返した。9回表1死二、三塁。第2リードが大きく、再びゴロでの本塁生還を狙っていた三塁走者・坂本勇人を刺した捕手・坂本誠志郎は一矢報いる好送球だった。直後の中前打。本塁クロスプレーでも、難しいハーフバウンドの返球を好捕、好タッチして追加点を防いだ。

 8・5ゲーム差と開き、巨人は独走している。伝統の一戦でも甲子園のスタンドには空席が目立った。寂しく悲しいが、真摯(しんし)に戦うしかない。「幸運はよく準備された実験室を好む」と細菌学者ルイ・パスツールの名言にある。1億円を拾うような「偶然」を信じるのである。=敬称略=(編集委員)

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