【内田雅也の追球】「父親」への「七転八起」――阪神4番・大山の苦闘

[ 2019年6月17日 08:30 ]

交流戦   阪神5―5オリックス ( 2019年6月16日    京セラD )

<オ・神> 延長12回2死二、三塁、大山は空振り三振に倒れ、捕手・飯田はガッツポーズ(撮影・大森 寛明)
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 野球がとりわけ人生と似ているのは、試合やシーズンが山あり谷ありだからである。失敗が多いという特徴は、取り返す機会もあるという希望につながる。

 たとえば、前日15日、監督・矢野燿大から緩慢な走塁を「論外」と指弾された大山悠輔である。

 16日も第1、2打席はともに2球見逃しで追い込まれ、空振り三振に倒れた。4番打者の消極的な姿勢は、そのまま6回まで無安打という貧攻を象徴していた。

 第3打席の7回表無死一、二塁。今度は初球を打ちに出て右翼線への適時二塁打とした。反撃へののろしとなった。

 一塁守備でも延長10回裏無死一、二塁でチャージをかけ、バントを三封。ピンチを救ってみせた。

 規定最終の12回表2死三塁では目の前で糸井嘉男が敬遠された。4番として奮起する場面だが、空振り三振に倒れ、唇をかんだ。まさに山あり谷ありだったわけだ。

 試合は延長12回引き分け。阪神は5点差を追いつき、わずか3安打でも負けなかった。

 父の日だった。<四番とはチームにとっての父親である>と、新井貴浩(現本紙評論家)が阪神在籍当時の2012年11月に出した『阪神の四番』(PHP新書)に書いていた。

 <子どもにとって父親はすごく強い存在だ。父親の弱気なところや弱い部分を子どもは見たくないし、父親も見せまいとする>。新井は父親の<愛情に裏打ちされた厳しさ>の下で育った。父親は自身が家庭の事情で断念した野球への夢を新井に託していたようだ。

 同書が出たのは金本知憲(現本紙評論家)引退の直後だった。新井はこの年4番を任され、外され、その重圧に<タイガースの四番は独特の存在>と苦しんでいた。

 大山も苦しい日々かもしれない。ただ、この日も3三振したが、天をあおいだり、首をひねったりしなかった。3年目、24歳の独身だが、新井の言う「父親」らしい振る舞いだったと言えるだろう。

 もう一人、北條史也を書いておく。5回裏2死から遊ゴロをはじき(失策)、余分な3失点につながった。いずれも自責点はつかない。失策絡みの失点を示す非自責点は今季計42点となり、広島を上回ってセ・リーグ最多となった。

 北條はその後7回裏2死の守りで、二盗での送球を受け、走者を刺してみせた。オリックス側がリプレー検証をリクエストしたほど間一髪で、素早い直下型のタッチが光った。失敗を少しは取り返したのだった。

 新井の著書には『七転八起』と副題がついていた。同書「おわりに」で「何度転げようが、大切なのはそのあとだ」と自らに言い聞かせるように書いていた。

 長く、険しい道が続くシーズンは確かに人生のようだ。転んでも起き上がればいい。=敬称略=(編集委員)

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