ヤクルト移籍した近藤一へ、オリ金子から届いた“友情のボール”

[ 2016年7月31日 09:00 ]

オリックスからヤクルトに移籍した近藤一

 29日付の新聞の片隅に小さな記録が載っているのに気がついた。4回1安打無失点。「やったね~」とメールを送ると、間もなく「ありがとうございます」と電話がかかってきた。相変わらず、律義な男だ。声の主は、オリックスからトレードでヤクルトに移籍した近藤一樹投手だった。

 イースタン・リーグのDeNA戦で迎えた移籍後初登板。新しい環境での練習や登板は、緊張もあっただろう。「体がキャンプ中みたいにバキバキでした」という。それでもMAX146キロを出すなど、内容も結果も十分。予定の3回を終えて、さらに4回もマウンドに上がったところに、調子の良さがうかがえた。順調な第一歩に、こちらも自然とうれしくなった。

 コンちゃん。私はいつも、こう呼んでいたが、とにかく優しかった。いつだったか「健康診断で引っ掛かった」という話をしたら、居酒屋でサラダ、オニオンスライス、トマトを続々と私の前に置き、「全部、食べてください」と言われた。その数日後、わざわざ「ウコン」を買って届けてくれた。軟水より、硬水を飲んで栄養を吸収する術を、丁寧に解説してくれたこともあった。

 コンちゃん、俺の主治医かいな。

 トレード発表となった17日、2軍選手の前で近藤一があいさつした際、ぼろぼろと涙を流した選手が何人もいたという。陰で若手投手の相談に乗っていたのを、私も知っていた。後日、その話を聞いて、改めてその人柄を感じたものだ。

 今回のトレードの是非を問うつもりはない。ただ、近年のオリックスの編成面には、何とも言い難いものを感じる。昨年はケガがあったとはいえ、馬原、井川、中山らを続々と戦力外とし、野手でも坂口、鉄平がいなくなった。選手層が薄いと福良監督が嘆く一方で、坂口がヤクルトで3割近く打っているのも事実だ。もちろん、これは結果論かもしれない。ただ、新陳代謝があまりに急激すぎる印象が消えず、若い選手がベテランの良い部分を吸収する前に、チームの入れ替えが進んでいる気がする。

 余談はさておき、近藤一樹を「友」として仲良くしていたのは、もちろん、私だけではない。発表翌日の18日。後半戦の開幕戦となったソフトバンク戦でオリックスは6―0と快勝した。腰痛がありながら、5回無失点で抑えた金子が勝利投手になり、ウイニングボールを手にした。そのボールがつい最近、ヤクルトの選手寮に届いた。近藤一の仮住まいだ。

 ボールには18日に登板した金子、塚原、海田、吉田一、平野のサインとともに「お互い 頑張ろう」とメッセージも添えられていた。同学年で最も仲が良かった金子の計らいであることは間違いなかった。

 金子くん、あの日のボールどうした?

 「もらいましたよ」。

 今どこにある?

 「僕の手元にはないです」。

 意地悪な聞き方をしたが、届いたらしいよ、すごく喜んでいたよ、と言うと表情が一変。「喜んでくれたなら、よかったです」と恥ずかしそうに笑った。金子もいい奴だけど、照れ屋だ。口には出さず、「お互い 頑張ろう」の気持ちは心に刻んでいるだろう。

 金子は通算101勝目だった。100勝の記念球は自ら持ち、101勝目は友が持つ。いい話だ。いつか、日本シリーズで2人の投げ合いを見てみたいと思った。(オリックス担当・鶴崎唯史)

続きを表示

2016年7月31日のニュース