「五輪=世界一決定戦」ではない…有力選手辞退で顕在化した矛盾

[ 2016年7月12日 08:15 ]

3日に行われたリオ五輪・日本代表選手団の壮行会

 リオデジャネイロ五輪のゴルフの代表選手が決まった。世界ランキングをもとにした五輪ランクの男女上位2人ずつが、112年ぶりに五輪に復活するゴルフで日の丸を背負うが、男子は2人が出場を辞退した。

 日本人最高の世界ランク17位、松山英樹(24=LEXUS)は、辞退の理由にジカ熱や治安の不安、過密日程などを挙げたが、昨年から「(五輪は)本当に、世界一を決める大会なのか?」とも話していたと言う。

 五輪の在り方を問う言葉として、少し考えてみる。

 1896年の近代五輪開始後から、国際オリンピック委員会(IOC)は、アマチュアリズムを重視してきた。その精神は、少し乱暴に言えば、勝利よりも、参加することに意義があるとの言葉に凝縮される。

 「平和の祭典」の別名通り、五輪は友好を深める目的で世界中から選手が集まるお祭りだ。1974年に五輪憲章からアマチュア条項が完全に削除され、商業化、プロ参加が加速したが、IOCは「友情・連帯・フェアプレー・世界平和」のオリンピック・ムーブメントを堅持してきた。

 このため、各種目の出場選手は五大陸の代表という原則が守られ、肥大化の防止で選手数も絞られるため、国別の参加枠の関係で出場できない実力者がいる。競技力は大陸ごとに均一ではなく、1国にトップ選手が集中している場合もある。松山が言うのは、五輪は必ずしも、「実力」の世界一決定戦ではないという意味だろう。

 ある競技の指導者から「本当に強いのは、世界選手権の王者」と耳打ちされたことがある。参加選手数が多く、実力者がほぼそろう世界選手権。巨大な注目の中で重圧と闘う五輪。いい悪いではなく、両者が異質の大会であるのは事実だ。

 松山を含む男子プロゴルファーの大量の出場辞退は、この異質さを浮き上がらせた。サッカー男子はW杯が最高峰。MLBが賛同しない野球は五輪を外れた。ゴルフとともに五輪に復帰するラグビーも、7人制だ。

 五輪は最高の栄誉に違いはないが、すべての、特にメジャー競技の選手に、最高のタイトルと認識されているわけではない。この流れは、商業化・プロ参加で求めた五輪のメジャー化と、オリンピック・ムーブメントの矛盾を意味する。

 顕在化しつつあるこの矛盾に、IOCはどう折り合いをつけるのか。東京五輪を前に、4年に1度の祭典が過渡期を迎えている。(鈴木 誠治)

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2016年7月12日のニュース