稀勢の里「笑顔」が充実の証 仏頂面から脱却、綱取りへ自然体

[ 2016年7月12日 12:50 ]

初日の御嶽海との立ち合い前に、リラックスした表情を見せる稀勢の里

 大相撲の大関・稀勢の里(30=田子ノ浦部屋)の綱獲り場所が始まった。暑さとの闘いにもなる名古屋場所だが、6月27日の番付発表後は曇り空の日も多く、例年ほどの暑さは感じられない。「寒暖差に気をつけていきたい」と細心の注意を払っていた綱獲り大関だけに、場所前はほぼ思い通りに稽古は詰めた。初顔合わせだった初日の御嶽海、右四つになれば力を発揮する新関脇・魁聖とも、危なげなく退け、調整がうまくいったことをうかがわせる滑り出しととなった。

 先場所から話題となっているのが、稀勢の里の表情だ。出番を待つ土俵下で、笑っているような様子をNHKのテレビ放送に映し出されていた。今場所は、支度部屋でもにこやかな表情が目立ち、朝の稽古場でも表情は和らいでいる。「意識的にそのような表情をつくっているのか」という質問には「特に意識していない」という答えが返ってくる。何がきっかけになったのかは分からないが、大一番になると目をパチクリして緊張していることが丸分かりだった以前とはまるで違う。

 勝負師が笑顔であるのはどうかという人もおられるだろうが、笑顔は周りの人を幸せにする効果があるだけでなく、自身のパワーアップにもつながる。笑顔になるには顔にある表情筋が使われるが、これに伴い、ドーパミンやアドレナリンなど、ストレスを減少させるホルモンが分泌されるという。また、体内物質のエルドルフィンに作用を及ぼし、血圧を下げる働きもあるとされている。とある研究によると、メジャーリーガーの野球カードを使った調査では、輝くほどの笑顔を浮かべていた選手ほど寿命が長かったという結果も出ている。

 稀勢の里は02年春場所、15歳で初土俵を踏むと、本格的な相撲経験がなかったものの瞬く間に番付を挙げた。17歳9カ月での十両昇進、18歳3カ月での幕内昇進は、いずれも貴乃花(現親方)に次ぎ、史上2番目の年少記録だ。この記録だけ見れば早熟と言えるが、稀勢の里は30歳になった現在、「まだまだこれから」と伸びしろがあると感じている。

 年6場所となった1958年(昭33)以降、初優勝を飾った力士は59人いるが、30代での初優勝は霧島(91年初場所、31歳)、貴闘力(00年春場所、32歳)、旭天鵬(12年夏場所、37歳)、琴奨菊(16年初場所、31歳)の4人だけ。だが、今の稀勢の里にはそれを成し遂げ横綱に昇進しそうな雰囲気がある。

 笑顔がパワーアップにつながっているのか。仏頂面から脱却した稀勢の里の挑戦から目が離せない。(佐藤 博之)

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