人気浪曲師・玉川太福 「いつか寄席でトリをとるのが夢」

[ 2020年8月27日 12:00 ]

浅草演芸ホールの楽屋でポーズをとる玉川太福
Photo By スポニチ

 【牧 元一の孤人焦点】浪曲師・玉川太福の口演を浅草演芸ホールで堪能した。

 TOKYO FM「ON THE PLANET」の火曜パーソナリティー。映画「男はつらいよ」シリーズを浪曲化した新作などで知られる人気者だ。

 寄席には落語家のほか漫才師やマジシャンが出演し、浪曲師は珍しい。ほとんどの観客が浪曲師が登場することを想定しておらず、いわばアウェー。ところが、この日は壇上に太福が姿を見せると、客席から「待ってました!」と男性の野太い声が飛んだ。

 太福はまず、浪曲とはどんなものであるかを簡潔に説明。♪と~ね~のお~、と節をつけて聞かせ、「20秒かけて、みなさまが得られる文字情報は3文字しかない。浪曲は進みが遅い」と笑いを取った。

 演目は古典「鹿島の棒祭り」で、剣客・平手造酒(ひらてみき)の酒にまつわる話。浪曲を生で聞くのはこの日が初めてだったが、何より、ホール中に響き渡る声の力強さに圧倒された。重低音が五臓六腑(ろっぷ)を刺激し、体が浮き上がるような感じ。落語や講談のように物語が進行しつつ、曲師(きょくし)の三味線が鳴り、節がつくので、印象としては、話芸と音楽が融合した総合芸術だ。

 浅草演芸ホールの松倉由幸社長は「太福さんにはぜひ出てほしかった。庶民的な笑いで、浅草に合い、とてもなじむ。落語と同じ話芸だけれど、三味線、節が入り、聞いているとワクワクする。なぜ浪曲が一時代を築いたのか分かる気がする。浪曲が脚光を浴びるきっかけになるかもしれない」と期待する。

 近くの喫茶店で本人に話を聞いた。現在、41歳。伝統芸を継承している人なのだが、古くささがどこにもない。良い意味で軽く、明るい。

 「浪曲は庶民的なもので、全く難しいものじゃないです。セリフのところは落語と同じように楽しんでもらって、節のところは頭で考えるんじゃなく身を委ねて感じてほしい。私も、初めて聞いた時、『良く分からないけれど凄い!』とカルチャーショックを受けました」

 2007年3月、二代目玉川福太郎に弟子入り。浪曲定席の木馬亭に出演するほか、年間50回を超える独演会を開催。昨年2月に落語芸術協会の準会員になり、落語定席にも出演している。

 「古典と新作を一生懸命やってます。両方とも面白いと言ってもらえるように、芸の幅を広げ、質を高めて行きたい。そして、凄く生意気なんですけど、いつか、広沢菊春先生(昭和の頃、寄席に出演した人気浪曲師)みたいに、寄席でトリを取れればいいと思っています。これは、ひとつの夢かもしれません」

 興行の世界は人気が大事。多くの客を呼べれば、寄席のトリも夢ではないだろう。

 今後、さらに関心を集めそうなのが「男はつらいよ」シリーズの浪曲化だ。もともと1作目は劇作家の大西信行さんが過去に書いていたものだが、山田洋次監督、松竹の許諾を得て17年から自身で全50作の浪曲化に挑んでいる。

 「この前、15作目の『寅次郎相合い傘』をやったばかり。ライフワークです。寅さんの恋の物語、家族の物語は浪曲と親和性が高い。浪曲がきっかけで寅さんファンになったという人もいます。ぜひ見に来てください」と笑った。

 浪曲の新たな躍動を予感させる芸人だ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

続きを表示

2020年8月27日のニュース