波乱の人生が大女優をしたたかで強い女にした!

[ 2020年8月27日 08:30 ]

会見に臨む岸惠子(撮影・小海途 良幹)
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】女優の岸惠子が10月に首都圏で「いまを生きる」と題したスペシャルトークショーを開催する。8月14日に都内で本人が開いた趣旨説明の会見に足を運んだ。

 コロナ禍のさなかに、一人語りのスタイルで、変わりゆく世界や身近な話題を語っていく趣向。翌日の紙面とアネックスでも内容は報じたが、渡哲也さんの悲報と重なったため地味な扱いになった。このコラムで挽回したいと思う。

 映画「君の名は」3部作(1953~54年)「おとうと」(60年)「約束」(72年)「細雪」(83年)など、数多くの代表作を持つ大女優。個人的には市川崑監督の「かあちゃん」(2001年)や金田一耕助シリーズ「悪魔の手毬唄」(77年)「女王蜂」(78年)も大好きだ。

 会見の3日前に米寿を迎えたばかり。「88歳と3日間、今さら“生きる”をテーマに話をするのも恥ずかしいけれど、ごまかすことなく、自分に正直に一生懸命生きてきました」と口火を切り、コロナ禍の日常についても「コロナがあろうがなかろうが、生きる姿勢に変わりはない。ただどう耐えていくかです」と強調した。

 女優さんはたいてい年齢よりも若く見えるが、岸の場合は格別。「秘けつは?とよく聞かれますが、自然体で生きているだけ。見栄を張ったりせず、自分で出来ることを誠心誠意やることだけですよ」と淡々と語った。

 「負けて勝ちを取る」というモットーは過去のエッセーでも書いてきたこと。「外国への渡航が禁止されていた時代にフランスに渡りましたが、大人の国と言うのでしょうかね。カルチャーショックという言葉ではとても表現できないくらいの衝撃を受けました」と述懐する。

 「日本ではよく“敵の懐に飛び込め”と言いますが、フランスでは“敵を自分のポケットに放り込め”です。鎖国をしてきた日本と違い、国境線も奪い合う日々。負けてしまうこともあっても、そこから学ぶ。私もしたたかで強い女になったと思います」

 56年に公開された日仏合作の恋愛映画「忘れえぬ慕情」で仕事をしたフランスの映画監督イヴ・シャンピと恋に落ち、翌57年に結婚。63年には一人娘にも恵まれ、日本とパリを行ったり来たりしながら幸せな生活を送ったが、夫の愛人問題などもあって75年に離婚。娘の国籍、親権を巡る問題などもあり、そうした山あり谷ありの人生から「めげない。頼ることのない生き方」(本人)が培われた。

 パリでは築400年の古いアパートをリフォームして暮らしているというが、2018年のクリスマスを過ごしたのを最後に行けていない。もちろん新型コロナウイルス感染拡大の影響だ。「今年5月にパリに行こうと思いましたがダメ。8月には娘が孫を連れて日本に来る予定だったけれど来られなかった。世界中が地域主義、閉じこもった状態になるのが怖い。私は家でいつもと変わらない日常を過ごしています」

 トークショーでは1時間のスピーチを予定しているが、中身はこれから煮詰めていくそうだ。今は本の執筆に夢中。「巴里の空はあかね色」(83年)などのエッセーや、自らの恋愛体験をもとにつづった小説「わりなき恋」(13年)など文筆家としても才を発揮する岸。「旧ソ連のフルシチョフ首相の専用機に乗った話とか…今しゃべっちゃうと何にもならないけど、夢中で書いてます。2つのことを同時には出来ないから、舞台のことはこれから考えます」と笑顔で語った。

 10月3日の東京・新宿文化センターから同26日の横浜・神奈川県民ホールまで7会場8公演。「その頃、コロナがどうなっているか見当もつかないし、“ぜひ劇場に来て頂きたい”と言うのもちょっと気が引けるけど…」と大女優は戸惑いを隠さずに会見を締めくくった。

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2020年8月27日のニュース