球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

「肘=高価な商品」高校生にまで広がる“投資”の手

[ 2016年6月19日 05:30 ]

 ダルビッシュ有が故障者リストに入った。田中将大には「登板間隔を5日以上にすべき」とメディアの声が集まる。中4日登板の防御率4・70、中5日以上なら1・65、「日本式に戻せ」というのだ。肘じん帯再建手術(トミー・ジョン手術)をしたダルビッシュ、しなかった田中、正解はどちらか…。肘の故障と手術の周辺を野球記者が詳細に追った本「腕=ジ・アーム」が話題だ。「スポーツ界で最も商品価値が高い道具の内幕」の副題が内容をズバリ語る。

 大リーグでは多くの投手が肘のじん帯損傷で苦しんだ。かつては歯医者が使う麻酔薬や競走馬用の鎮痛剤で痛みを抑えて投げるか、引退するか、だった。1974年、フランク・ジョーブ博士が損傷したじん帯を手首や脚のじん帯(死者のものを使うケースもある)と付け替える手術をトミー・ジョン投手に施しカムバックさせ、状況が変わった。それから40年。新たな課題は、年平均30人超の選手が手術を受ける大リーグでいまだに術後のケア方法が確立せず、リハビリ期間も投球制限も手探り状態の指摘だ。

 最高レベルの大リーグでこのありさま。著者は大リーグ球団のスカウトを“相手”にする多額の費用が掛かる高校生チーム(学校のチームとは別)の危機的状況を伝える。スピードガンの数字を上げようと無理に投げて故障し、手術を受ける選手の続出。ドラフト指名と大金の夢で両親が“投資”をいとわないのである。現在、この手術の第一人者ジェームズ・アンドルーズ博士は年平均80~90人の高校生を扱う。著者とのインタビューで、「明日は4人」というのが生々しい。楽天・安楽にも1章が割かれた。実に面白いが、読後感は重い。 (野次馬)

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