球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

ボンズとクレメンスを捜査した男の思い

[ 2022年1月9日 05:30 ]

 ニューヨーク・タイムズ紙には「オピニオン=意見」ページがある。地球環境問題から街の心温まる小話まで、取り上げたいテーマの専門家に「意見を書いてもらう」名物ページだ。

 昨年12月30日付は「私はボンズとクレメンスを捜査した。イエス、2人は殿堂にいるべきだ」。意見を寄せたのが元連邦捜査官のジェフ・ノビツキー氏なのに驚いた。ステロイド(筋肉増強剤)使用選手摘発騒動がヒートアップした07年、摘発側の“主役”がノビツキー氏だ。同氏の捜査の結果、メダル剥奪となった五輪選手が何人いたことか。スポーツ界の薬物汚染摘発の専門捜査官なのだ。

 原文に従い、敬称抜きで進めるが、鬼の捜査官は心変わりしたのではない。なるほど、同氏は「打」のバリー・ボンズ(762本塁打、MVP7回)、「投」のロジャー・クレメンス(サイ・ヤング賞7回)を裁きの場に引き出した。しかし、「ボンズの11年の大陪審での司法妨害は15年に覆され、クレメンスの08年の連邦議会でのさまざまな証言疑惑も12年に全て無罪とされた」。無罪の人間の排除はおかしい、と割り切るのだ。その上で「私たちの多くは当時の驚異的な打球と投球を見て目がくらんでいた。2人が裁きの場に座ったとき、2人が真空の中でプレーしていたのではなく、球界の熱気の中にいたことに気付かされ、球界はもちろん、メディアもファンも集団的な失敗を犯したような気分になったのでは…」。

 センセーショナルな見出しの中身は濃く、地味なトーン。この記事が出た翌日の大みそかが記者投票の締め切り日。ニューヨーク・タイムズ紙はニュースに影響を与えないようタイミングを計ったのだ。2人は今回が10度目の審判。これを逃すと殿堂入り候補者リストから外れる。いよいよ決着のとき。(野次馬)

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