球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

殿堂投票辞退者が増加…背景にはステロイド時代

[ 2021年1月31日 05:30 ]

 殿堂入りに値する選手がいなかった。先週の野球殿堂の発表だ。全米野球記者協会に10年以上在籍の約400人の記者投票で、25人の候補者の中で「当選」の75%以上の得票者は「0」。1936年から始まった記者投票で8年ぶり9回目だから、驚くことではない。

 殿堂が困惑したのは、投票辞退の記者が増えたことだ。かつてはベテラン記者の“勲章”だった投票権所有が、今は「ステロイド時代の面倒な後始末を押しつけられた」と考える記者が増えている。高名な人気記者に棄権が多いのも殿堂には悩みだ。

 ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの有力紙は昔から記者にこの種の投票への参加を禁じていた。「記者はニュースを報じるのが仕事で、ニュースをつくるべきでない」との報道原則を守るためだ。しかし、これには殿堂が困る。「野球の見巧者」とファンから信用されているグループの記者協会員の投票こそが「好記録=プレー能力の高さ」とともに、「高潔=誠実さ、スポーツマンシップ、人格」をも保証して、“強く正しい”殿堂入り選手を選んできたはずだからだ。

 しかし、これは神話であり伝説だ。ステロイド時代がこの神話を揺るがせた。記者協会は、殿堂理事会にステロイド時代の選手への「投票ガイダンス」を要求し、殿堂入り当選者の発表後に全ての投票を公開するよう申し入れた。

 殿堂理事会はこれを拒否したが、理事長のジェーン・フォーベス・クラーク氏(彼女の曽祖父の大富豪が殿堂を創設)は「最適な選挙人は野球記者以外にはいません」という。記者は「殿堂は背後に隠れ、記者に汚染選手を絞り出させる汚い仕事をさせている」と怒る。揺れる神話の殿堂を挟み、押し問答が続いている。(野次馬)

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