ソフトバンク・椎野 背水の5年目へ――朝倉未来の本で得たメンタルコントロール

[ 2022年3月27日 08:30 ]

ソフトバンク・椎野(撮影・木村 揚輔)
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 スポットライトの当たらない日々を乗り越えて――。ソフトバンク・椎野新投手(26)には並々ならぬ覚悟がある。昨季はプロ初の1軍登板なしに終わったが、今季は5年目で初の開幕1軍。背水の1年に野球人生を懸けて挑む。

 25日、日本ハムとの開幕戦。試合前セレモニーで無数のスポットライトを浴びた。1メートル96の長身はバックネット裏最上段にある記者席からでも一目で分かった。「5年目でちょっと恥ずかしさもあったね。去年から“今年ダメだったら終わる”と覚悟を決めてやってきた。もう、やるしかない」。吹っ切れた表情で藤本監督やナインとハイタッチを交わした。

 昨年は筑後ファーム施設で苦虫を噛(か)み続ける日々だった。夏は気温30度後半にもなる灼熱の地で真っ黒に日焼け。ファームではチーム最多の45試合に登板。9セーブを挙げ、最多セーブのタイトルを獲得した。それでも、1軍から呼ばれることはなかった。「あと1試合、2試合抑えれば上がれる、という時に打たれた。26年間の人生で1番苦しかった。小、中、高、大はエースだったし、本当に屈辱しかなかった」。夏場にはストレスを抱え、突発的に目が見えなくなる症状も出た。心は折れる寸前。投手陣の中では明るいキャラクターで、後輩たちからも好かれる人気者だからこそ、周囲には弱みを見せられなかった。

 19年は中継ぎの一角として36試合に登板し5勝2敗、防御率3・13。さらなるブレークが期待された3年目に歯車が狂った。「3年目は勝ちパターンに入る気持ちでいって、勝手にプレッシャーをかけてしまった。気合、気合で全力投球が良くなかったし、感情の波が激しかった」。理想と現実のギャップに苦しんだ。そんな悩める男は一冊の本に出会った。

 2月の宮崎春季キャンプ中、大ファンの格闘家・朝倉未来の本を手に取った。常に一人で戦う孤独な競技のメンタルを学ぼうと読み始め、「朝倉未来はいつも自分を客観的に見ていた。常に冷静でいることが本当の強さだと知った。マウンドに行く怖さもなくなったし、ポジティブになれている」。雑念を捨てる重要性を知り、無心の境地を切り開いた。

 オープン戦は3試合で3回1/3を投げ、無失点。11日ヤクルト戦では「どんどん攻めたろう」と開き直ってマウンドに向かった。5回2死満塁から救援し、2球で見事な火消し。6回も3人で料理するなど結果を示してきた。「常に大事な試合と思ってやってきたオープン戦。だから、ペナントもいつも通り冷静に投げられると思う」と“朝倉未来メンタル”の効果は絶大。身長だけでなく、存在感も大きくなりそうだ。

 「今年はゴールをつくらない。目先の1試合、1球だけしか考えていない」と椎野。言葉通り一球入魂の精神で、終わりなき旅の新たな1ページを刻み込む。(記者コラム・福井 亮太)

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2022年3月27日のニュース