【内田雅也の追球】阪神・江越 機運巻き起こした、ひたむきな走塁

[ 2016年7月8日 10:00 ]

<巨・神>初回1死一、二塁、福留の左中間二塁打で一塁から生還する江越

セ・リーグ 阪神6―0巨人

(7月7日 東京D)
 阪神30試合ぶりとなる大量6点には力走が絡んでいた。むろん主軸が働いた結果だが、機運を巻き起こしたのは懸命に走った走者である。

 1回表は連続四球の1死一、二塁から4番・福留孝介が左中間二塁打を放った。一塁から長駆生還した江越大賀の力走があった。ライナー性の飛球に判断良くスタートし本塁を奪った。

 3回表の追加点は1死から江越が遊撃左にゴロを打ち、懸命の力走で内野安打とした。2死後にマウロ・ゴメスの2ランが飛び出したのだ。

 5回表は先頭の西岡剛が中前打で出て、二盗を決めた。この走塁から連続四球と相手投手の乱れを呼び、ゴメスの左前2点打に結び付けた。

 しばらく忘れていたのが、このダイヤモンドを駆け回る姿である。春先の快進撃は一塁への全力疾走や次塁を積極的に狙う走塁、盗塁やヒットエンドランなど機動力に支えられていた。

 七夕の夜。屋根付き球場で夜空は見えないが、星に願うなら、あのはつらつとした走塁だろう。

 『星の王子さま』の名言がある。王子はキツネから「秘密」を教えられる。「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」

 心で見れば、目に見えない選手の心も見えるだろう。それが大切なことだ。見えたのは、ひたむきさや積極性である。

 前回6点を奪ったのは5月28日巨人戦(東京ドーム)で、初球打ちの適時打、本塁打で4打点をあげていた。積極性が際立っていた。

 チーフ兼守備走塁コーチの平田勝男は言う。「野球は心が表に顕れるスポーツだ。最もよく見えるのは走塁だ」。この夜の走塁にはひたむきさが出ていた。

 野球は、実際に動いている選手が少なく、多くの選手が見ている。観客はもちろん、自他双方から「見られるスポーツ」でもある。相互に刺激しあっているのだ。だから力走や快走がチームに活気を呼んだのだ。

 もう一つ。大量6点リードでも8回表無死一塁で岡崎太一に送りバントを命じた。ヘッドコーチ・高代延博は「きっちり送って、点を取ろうとしたのだろう。このところ失敗続きだったからね」と監督・金本知憲の思いを推し量った。藤川球児、ラファエル・ドリスもつぎ込んだ。かぶとの緒を締めての再スタートである。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

続きを表示

2016年7月8日のニュース