安らぎの「栗の樹ファーム」 栗山監督を支えた栗山町のぬくもり

[ 2012年10月3日 10:51 ]

「栗の樹ファーム」で草刈りする日本ハム・栗山監督

 身も心も、ボロボロに疲れ果てても、安らげる場所がある。独身を貫き通して51歳を迎えた日本ハム・栗山監督にとって、それは北海道の大地であり、栗山町のぬくもりだった。

 「本当に、何て言うか力をもらえた。北海道でよかったなあって」

 北海道で拠点としたのは札幌市内のホテル。約60平方メートルのスイートルームを借り、食事もシェフが好きな物を注文通りに調理してくれる。都内の自宅に帰るのは東京ドームの主催ゲームのときだけだが、私生活面での不自由は感じなかった。

 快適な生活。ただ、ホテルで過ごす時間は「一人でいるから、どうしてもあれこれ考え過ぎてしまう」という。そんなとき、自然と足が向くのが栗山町だった。日本ハムが北海道移転する2年前の02年、町民の協力を得て造った「栗の樹ファーム」。その第二の故郷へ帰る回数はシーズンが進むに連れて増えた。

 憩いの時間は2匹の北海道犬の散歩と野球場の草刈りだった。栗山監督が憧れる大リーグの名選手、ジョー・ディマジオにちなんだジョーは7歳、元気だからつけたゲンは9歳。2匹と静かな大地を歩き、キタキツネも現れる野球場の草を一心不乱に刈る。「草刈りって体力を使うから、集中して他のことを考えないんだよね」

 そんな栗山監督の憩いの時間帯に、町民は一人も姿を見せない。「監督は疲れてる。帰ってきたらそっとしよう」。誰からともなく、町民が申し合わせて「栗の樹ファーム」に近づかないのだという。野球場には草刈り機がある。チームが遠征に出ると、町民が持ち帰ってメンテナンスし、栗山監督が帰るまでに元の場所へ戻すそうだ。

 休養日の9月24日。栗山天満宮を訪れた。残り9試合への必勝祈願。町の秋祭り初日で境内には獅子舞がいた。頭をがぶりとかまれる姿を町民たちの笑顔が包み込む。激戦への活力はこんなところから生まれた。10月1日の移動日に栗山町へ戻った栗山監督はこの日、犬の散歩をしていると、今年初めて落葉(北海道などで穫れるきのこ)を見つけた。「味噌汁に入れて食べたらおいしくて。何かがおいしく感じられるのは久しぶりだね」

 味覚を忘れるくらい勝負に集中してきた。そんな栗山監督を支えたのは、北の大地の恵みと道産子の温かさだった。

 ◆栗の樹ファーム 栗山監督が北海道・栗山町の協力を得て私財を投じて同地に建設した全面天然芝の野球場やログハウスなどの施設。99年に町名と同じ名前という理由から観光大使に招かれたのが縁で町民との交流が始まり、映画「フィールド・オブ・ドリームス」を見て「いつか天然芝の野球場を造りたい」と抱いていた夢を02年に実現させた。野球場では毎年夏に少年野球大会を開催。ログハウスには栗山監督が収集した野球のお宝グッズが展示されている。JR室蘭本線栗山駅から徒歩15分ほどの小高い丘に位置する。

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2012年10月3日のニュース