「侮辱」から始まった挑戦…イチロー「喜んでいいんだ」

[ 2010年9月25日 06:00 ]

5回、中前にクリーンヒットを放ち10年連続200安打を達成したイチロー

 【マリナーズ0-1ブルージェイズ】マリナーズのイチロー外野手(36)が23日(日本時間24日)のブルージェイズ戦で10年連続200安打を達成した。3回に左翼線二塁打を放って王手をかけると、5回1死一塁の第3打席で初球をライナーで中前打に運んだ。昨年、自身が樹立した連続シーズン200安打の大リーグ記録を更新するとともに、通算回数でも通算4256安打の大リーグ記録を持つピート・ローズ(レッズなど)の最多記録に並んだ。

【試合結果
一問一答


 純粋な喜びが突き抜けた。イチローの目に飛び込んだのは、ベンチの前に出て整列し、拍手を送るチームメートの姿だった。敵地のファンからもスタンディングオベーションが沸き起こった。イチローはようやくヘルメットを掲げ、頭を軽く2度下げて応えた。一塁ベースに到達してから21秒後のことだった。
 「チームメートがみんな祝福してくれて、あ、喜んでいいんだなって思いましたね。2年前のことがトラウマになっちゃってるからね」
 チームが101敗を喫し、最下位に沈んだ08年。8年連続200安打の偉業を達成したが、一部の選手が「個人記録のことしか考えていない」と陰口をたたき、米メディアも過剰に反応した。その苦い思いをずっと抱えていた。今季も置かれた状況は2年前と同じ。チームは早々と失速し、最大の理解者だったグリフィーは6月に突然、現役引退を表明した。また、孤独な戦いが始まった。18日に日米通算3500安打を達成した際もセレモニー自粛を申し出た。「感情の感覚というものが変な感じになった」。だが仲間の笑顔が、2年間の心にかかった霧を吹き飛ばしてくれた。
 快挙の裏でイチローはいつも苦しんでいた。昨季、連続シーズン200安打の大リーグ新記録を樹立し「ようやく人との戦いから解放された」と言った。今季は開幕前、200安打を意識せず達成することをテーマに掲げたが、周囲の期待はそれを許さなかった。「2年前は目標にすることすら否定され、今度は目標にしていないのに…。筋の通っていない感覚にずっと違和感を覚えながらのプレーだった」
 いつもは調子を上げてくるはずの夏場の7月は打率・246と低迷。一時は記録継続が危ぶまれた。152試合目での到達は、02、03年と並び2番目に遅いペースだったが、いつもの場所にたどり着いた。年間200安打の通算回数でも、4256安打の大リーグ記録を持つピート・ローズの最多記録に並んだ。
 イチローは「あの質問は一生忘れない」と笑みを浮かべて振り返る。メジャー1年目のオープン戦、当時ロッキーズのエースだったハンプトンと対戦した際、ある記者に「彼からヒットが打てると思うか?」と質問された。それから10年間、誰よりも安打を積み上げてきた。「最初は侮辱から始まった。それが“何でヒットが打てないんですか”という質問に変わった。周りを変化させられたことに対して、ちょっとした気持ちよさはある」。日本人野手初の大リーガーに対する懐疑的な目を変えてみせた。
 10月で37歳になる。昨季は胃潰瘍(かいよう)と左ふくらはぎ痛で16試合を欠場したが、今季は大リーグで唯一、全試合に先発出場を続ける。「トレーニング方法や設備も進化している。選手の寿命だって延びて当たり前」。今年3月中旬、ふくらはぎ専用のトレーニングマシンを日本からシアトルとアリゾナの自宅に運び入れた。昨年開発されたばかりの新製品。「(疲労物質が)抜けていく感じがすごい」と効果はてきめんで、自らを厳しく律する日々も「体がそうしたいと言っている」とストレスに感じていない。
 今季も宿命である200安打をクリアした。「達成感はあるのか?」との問いに「あるある。簡単じゃないことは僕が一番知っている」と言った。来季は新記録の11度目の200安打がかかる。「ぜひ(ローズを)超えてあげたいですね」。サラリと言ってのけるのも、また、イチローらしい。

 ≪4256本超えは14年?≫イチローは01~09年の9年間、シーズン平均で226安打をマークしている。このペースで換算すると、2013年のシーズン中に日米通算4000安打超え(4212本)。さらに、14年シーズン中にローズの4256本を超える4438安打をマークすることになる。14年の10月22日に41歳の誕生日を迎えるイチローが、40歳のうちに「最高峰」に立てるか。

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2010年9月25日のニュース