【ブレイキン】カルチャーを愛する“初代女王”AMI スポーツのブレイキンを「やってよかった」

[ 2024年8月10日 07:11 ]

パリ五輪第15日   ブレイキン ( 2024年8月9日    コンコルド広場 )

<パリ五輪 ブレイキン女子>金メダルの湯浅亜実(撮影・小海途 良幹)
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 今大会唯一の新競技のブレイキンは9日に女子を行い、湯浅亜実(25=ダンサー名・AMI)が金メダルを手にした。19、22年世界選手覇者が前評判通りの強さを発揮。決勝では昨秋の世界選手権覇者のドミニカ・バネビッチ(17=NICKA)に3―0(6―3、5―4、5―4)で勝利した。28年ロサンゼルス五輪では競技から除外されるため、最初で最後の五輪女王になる可能性もある。

 総立ちの観客のカウントダウンが始まった。「3、2、1、0!」。巨大スクリーンに金メダルを告げる結果が表示されると、実感がわかずに立ち尽くすAMIのもとにコーチ、スタッフが次々と飛び込んで来た。「全部出し切れてステージを楽しめた。最高って感じでした」。日本代表コーチを務める恩師・石川勝之(43=ダンサー名・KATSU ONE)から「楽しかったか?」と聞かれると「はい!」と最高の笑顔を返した。

 準決勝で勝負手を出した。オランダ人選手(ダンサー名・INDIA)を相手に、当初は決勝で出す予定だったムーブを急きょ導入。第3ラウンドの最後にあお向けで後方に動きなら銃を乱射するような動きを見せて観客を沸騰させた。小学5年時から師と仰ぐ石川コーチから受け継いだ「大事な時に使うと決めている」ムーブ。「五輪の決勝に行けたら使おうと思っていたけど、トップ4(準決勝)で出すべきだと思った」との直感がさえ、2―1(3―6、6―3、8―1)で逆転勝ちした。勢いに乗った決勝では昨年世界選手権覇者のNICKAにストレート勝ち。“初代女王”に輝いた。

 ブレイキンは大きく分けてカルチャーとスポーツの2種類があり、AMIはカルチャーを愛する。20年12月に五輪採用が決まった時は「スポーツという大きなものにブレイキンが押しつぶされるんじゃないか」と不安があり、五輪代表レースに参戦するか悩んだ。五輪を目指すことを決断したのは石川コーチの存在があったからだ。カルチャーを誰よりも愛する恩師が「カルチャーを知る人材がスポーツにも関わらないといけない」との使命で日本ダンススポーツ連盟ブレイキン部長に就任して奔走する姿に感銘。「私も挑戦しよう」と腹を固めた。

 従来は「出たい大会に出る」のが業界の常識だったが、五輪出場権獲得には予選レースに出ることが不可欠。重圧のかかる大会が続き「プレッシャーに耐えられず、ダンスがつまらなくなった」と落ち込んだ。ベスト16で敗退した昨年9月の世界選手権後は本気で引退も考えたが、石川さんら周囲の支えもあり踏みとどまった。

 「カルチャーもスポーツもいい意味で一緒だった。国とかに関係なく皆が一丸になって楽しむ。違う点は今まで見に来たことのない人が見に来てくれること。ブレイキンを知らない世界の人にも伝えられた。今は(スポーツのブレイキンを)やってよかったと思う。ロスでやってほしかった気持ちはあるけど、五輪が全てではない。私の中でブレイキンは自己表現だしアートだ」。葛藤を乗り越えて、つかんだ黄金の輝き。五輪のブレイキンも、カルチャーに劣らず最高だった。

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