ブレイキン世界女王AYUMI「プロセスを大事に」24年パリ五輪へ“踊り出る”

[ 2023年5月30日 07:00 ]

キレッキレの動きで魅せる福島あゆみ(撮影・後藤 正志)

 24年パリ五輪の新競技「ブレイキン(ブレイクダンス)」への出場を目指す21年世界選手権女王の福島あゆみ(39=ダンサー名AYUMI)が、本紙の単独インタビューに応じた。21歳で競技を始め、現在は「お掃除スタイル」を持ち味として踊る金メダル候補。これまでの歩みや大舞台への思いなどを熱く語った。 (取材、構成 西海 康平)

 清水寺や建仁寺、六波羅蜜寺にもほど近い場所で、福島はインタビューに応じるとともにキレのある動きを見せてくれた。1対1で勝敗を決めるムーブ(演技)に取り入れる独自性が自称「お掃除スタイル」。掃除機や雑巾がけ、掃き掃除などからインスピレーションを受けた動きを技に組み込んでおり「私のセカセカしている性格にマッチしていて。掃除の動作が凄く合っていたんです」と笑う。

 京都の二条に生まれ育ち、小さい頃は水泳やピアノ、習字、そろばん、剣道などを習った。中学ではソフトテニス部に所属。「めちゃくちゃ下手で、最後は主将で補欠でした」。その頃から留学願望を持ち、高校では外食チェーン大手「なか卯」などでアルバイトをして資金をためた。当初、憧れていたキャビンアテンダント(CA)は「お母さんに“身長が足りないよ”と言われて」断念。それでも、留学への思いは変わらなかった。

 19歳でカナダのバンクーバーへ。その年の夏休み、一時帰国した際にブレイクダンスをしていた3歳上の姉・梨絵さんに誘われてイベントに足を運ぶと、旧知の友達から「やってみたら?」と誘われた。当時、カナダで言葉の壁にぶち当たって引っ込み思案に。さらに留学前より10キロも体重が増加していた。「痩せたい」「新しい何かにチャレンジしたい」という思いから踊り始めると、一気にハマった。

 「全然できなくても、少しずつ変化が出てきて、それが凄く楽しくて。できないことが多くて“何かやりたい”と思っていた時期にブレイクダンスと出合って、自分の気持ちとマッチした」。始めてから3週間後には、姉の勧めでバトル形式の大会に参加。踊っている最中にムーブをド忘れして体育座りをし、小学生の女の子に敗れた。それでも「勝つ、負けるとかは何も分からず、凄く楽しかった」。カナダに戻ってからも偶然出会った日本人らと練習し、チームも組んで踊り続けた。

 26歳で帰国。京都で事務仕事をしながらダンスを続けた。海外の大会に出場する姉の影響を受け、自然と視線は外に向き、首のヘルニアなどにも負けずに努力を続けてきた。17年には世界最高峰の大会「Red Bull BC ONE決勝」に女性として初出場。21年には世界選手権で頂点に立ち、今年2月の全日本選手権では連覇した。

 現在は幼稚園や日本語学校で英語やダンスを教えながら競技に打ち込む。パリ五輪への出場、そして金メダルが期待される中でも、とにかく自然体で「楽しむ」ことを最優先にしている。

 「もちろん24年は見据えているけど、あんまり分かっていなくて。目の前の大会やプロセスを大事にしていて、その先に五輪があれば。“ブレイキンって楽しい”と感じてくれる人を増やしたいという思いがあるので、頑張っていきたい」

 41歳で迎える大舞台。会場はパリの中心部にあるコンコルド広場だ。世界中の注目を集めながら、細部にまでこだわったムーブなどを披露する。

 ◇福島 あゆみ(ふくしま・あゆみ)1983年(昭58)6月22日生まれ、京都市出身の39歳。中学でヒップホップダンスに出合い、一度は離れたものの、21歳でブレイクダンスを始める。サワー系のグミが大好物で「新しいものが出ていたらだいたいチャレンジする」。1メートル54。

 【ブレイキンアラカルト】
 ☆歴史 1970年代に米ニューヨークのブロンクス地区で発祥。ギャングの抗争を、暴力ではなく踊りで平和的に対決するようになったことが起源とされる。国際オリンピック委員会(IOC)は18年ユース五輪ブエノスアイレス大会で初めて実施。「ブレイクダンス」とも呼ばれる。

 ☆競技方法 個人戦、チーム戦がある。パリ五輪は1対1を採用。DJがかける音楽に合わせて、即興で1対1で交互にアクロバチックなダンスを披露し合い、技術や表現力、独創性を競う。1回に踊る時間は自由だが、30~60秒が一般的。ジャッジ(審査員)による採点で勝敗を決め「ボディ(技術)」「ソウル(表現)」「マインド(独創性)」が評価基準になる。全日本選手権は準々決勝、準決勝が2ラウンド先取制、決勝は3ラウンド制で実施。各ラウンドごとに5人のジャッジが優劣をつける。3人以上の支持を得た選手がそのラウンドを獲る。

 ☆ダンス構成 基本技は(1)立って踊りステップで魅せる「トップロック」(2)手を地面についた状態で足技を繰り出す「フットワーク」(3)頭、肩、背中、手など全身を使って回ったり跳ねたりする「パワームーブ」(4)ピタッと止まる「フリーズ」の4要素がある。

 ▼パリ五輪への道 出場枠は男女各16人で、各国・地域から男女それぞれ最大2人。今年9月の世界選手権(ベルギー)で優勝した男女各1人が出場内定1号となる。次にアジアなど大陸別の大会や選手権で優勝した各5人が出場権を獲得。残りはIOCが導入する来年3~6月に開催予定の予選シリーズなどで決める。日本は男女とも全日本選手権の上位8人を23年度の強化選手とし、五輪選考対象となる国際大会に優先的に派遣する方針。

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