サニブラウン生んだ「手狭」な練習場 徹底した基礎の繰り返しで開花

[ 2021年8月11日 05:30 ]

城西大城西中高の陸上部顧問、山村貴彦さん
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 剣豪・宮本武蔵の兵法書「五輪書」にちなんで、五輪競技の指導者のモットーを紹介する。今回は、東京・城西大城西中高の陸上部顧問で、サニブラウン・ハキームの恩師、日本陸連の山村貴彦強化コーチ(40)に「環境に左右されない極意」を聞いた。

 目立たなかったかもしれない。しかし、「マイル侍」も東京五輪で爪痕を残した。4人で1・6キロ(1マイル)を走る陸上男子1600メートルリレーは、予選で敗退したものの、日本タイ記録の3分0秒76を出した。平均年齢22・5歳の若い4人が奮闘した。まとめたのが山村コーチだ。

 自身もオリンピアン。00年シドニー五輪で個人の400メートルと「マイルリレー」に出場した。引退後、「陸上競技に関わりたい」と30歳目前で教員免許を取得。09年に城西大城西中高の教員になった。

 当時の陸上部は中高で10人程度だった。「今後は雨の日でも練習をする」と伝えたら「半分がやめてしまった」。残った生徒に基礎を教えると、メキメキと力を付けていった。

 環境は恵まれていない。学校は都内の住宅地にあるため、グラウンドは広くはない。全力で走れる距離は横40メートル、縦20メートル程度。しかも、そこを複数のクラブで使う。「スタート練習は5歩しかできない」という表現は決して大げさではない。

 週末は競技場を借りるとはいえ、平日のメニューは限られる。世界で戦った知識と経験から導き出したモットーは「基礎を徹底的にやる」こと。体の使い方を教え、体幹、お尻周りなどを鍛える。器具は使わず、自分の体重を使ってトレーニング。与えられた環境で土台づくりに力を注ぐ。

 中学で入学した東京五輪男子200メートル代表のサニブラウン・ハキームは、この手狭な環境から誕生した。中学では成長痛で練習ができない時期もあった。じっくり見守った。

 「能力が違った。フォームはいじらず、最低限の筋力を付けること、伸びしろを残すことを心がけた」

 在学中に世界ユース選手権で100メートル、200メートルを制覇。世界選手権にも出場した。卒業後、米フロリダ大へ進んで羽ばたいた。

 今や学校は全国大会常連校に定着した。長距離部門ができたことで、当初から10倍の100人近い部員がいる。しかし、環境も指導方針も変わっていない。「卒業後に学校を訪ねてくれたときに、昔話をすることがうれしい」。思い出話に花が咲くよう、基礎基本を身につけさせ、自己記録更新へと導いている。

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