男子バレー49年ぶり五輪表彰台へ 龍神の頭脳フィリップ・ブラン戦略担当コーチが解くメダルへの方程式
2020 THE PERSON キーパーソンに聞く
バレーボール男子日本代表、中垣内祐一監督(52)の下で戦略を担当するフィリップ・ブラン・コーチ(59)がスポニチの書面インタビューに応じ、新型コロナウイルスの影響で延期となった東京五輪に向けた強化の内側を明かした。昨年のW杯で日本を4位に導いた知将は、1次リーグ突破を狙う現実的な戦い方でベスト8以上を確信。日本にとって72年ミュンヘン五輪金メダル以来、49年ぶりの五輪メダル獲得に向けても、本音を語った。
ブラン・コーチが17年から代表の参謀役に就任して今年で4年目。昨年のW杯はエース石川祐希(24=パドバ)ら若手が躍動し28年ぶりの4位となり、東京五輪へ着実に階段を上っていた龍神ニッポン。突如のコロナ禍で強化プランは白紙となったが“エスプリ”の国から来た賢人は未曽有の事態も前向きに乗り越えようとしている。
「コロナ禍は私たちの人生の中でとても困難な出来事です。ただし、私は負けず嫌いの性格です。“水がコップの中に半分しかない(ネガティブな思考)”より“コップの中にはまだ半分もある(ポジティブな思考)”と考えています」
国際大会のネーションズリーグや五輪テスト大会は新型コロナウイルスによって中止に追い込まれ、3月から始まった代表合宿も4月上旬に解散となった。期間が決まっている代表にとって貴重な実戦の場を失ったが、これまでの強化に一定の手応えも感じている。
「チームの成長にとって大会の中止は残念だが、若い大学生選手を使うことができ、何人かは興味深い個性を見せてくれました。昨季は30日間で19試合もあったがパフォーマンスは素晴らしかった。アジア選手権、W杯の2大会によって精神面での進歩をチェックすることもできました」
ブラン・コーチは選手としてソウル五輪に出場。フランス代表監督として02年世界選手権銅メダル、ポーランド代表コーチとしては14年世界選手権優勝など、指導者としても世界を知り尽くす。東京五輪1次リーグの組分けで、日本(世界ランク9位)は格上のポーランド(同2位)、イタリア(同7位)と同じA組に入った。突破に向けてブラン・コーチはベネズエラ(同32位)戦がカギを握ると分析。
「我々の夢はメダルを獲ることです。ただ、ポーランドは一番強く、イタリアも五輪での経験も豊富でこの2チームに勝利を挙げるのは難しいでしょう。予選突破には上位4チームにならなくてはならず、少なくとも2勝はしなければなりません」
1次リーグ突破には世界ランクで同格の国に勝利することが絶対条件。リアリズムを貫くブラン・コーチはこれまでの戦績が日本を優位に導くと確信している。
「ベネズエラには勝利して(世界ランクが近い)カナダ(同10位)、イラン(同8位)に少なくとも1勝が必要です。ただ、W杯で日本が2チームに勝てたことはメンタル的に有利です。五輪中はチームの状況やスピリットが変化するとしても、やり遂げることができると思っています」
普段は代表チームで過ごすことが多いが、オフには都内にある知人のフランス料理店で母国の味に舌鼓を打つほか、練習後の入浴でリフレッシュしている。京都や金沢などで昔の日本の姿を楽しむなど、日本文化を愛するブラン・コーチも東京五輪開催を心待ちにしている一人だ。
「私の妻は、東京を舞台にした映画『ロスト・イン・トランスレーション』の大ファンで、ロケ地で写真を撮ったり映画のシーンをマネしたりしました。ロケ地ホテルの52階の窓から眺めた国立競技場の全景に驚きました。この時から開会式を想像しています」
新型コロナウイルスとの闘いが続くが、ともに東京五輪メダル獲得を目指す日本のファンに向けて熱いメッセージを寄せた。
「あなた自身と愛する人たちを守ってください。そうすればパンデミックはもっと早く終息します。バレーボールのおかげで私たちは情熱、感動を共有できます。大会が始まったら私たちを勝利に導いてくださるような励ましを期待しています」
▽バレーボール男子日本代表 最新の世界ランクは9位。五輪の過去最高成績は72年ミュンヘン五輪の金メダル。64年東京五輪は銅、68年メキシコ五輪は銀メダルを獲得した。直近の五輪出場は11位だった08年北京五輪で、これを最後に2大会連続で最終予選敗退。東京五輪は自国開催枠で出場権を獲得した。愛称は「龍神ニッポン」。
▽バレーボールの東京五輪大会方式 1次リーグは男女各6チームが2組に分かれて総当たり戦を実施。ストレート、3―1の勝利で勝ち点3、フルセット勝ちは勝ち点2。敗れても2―3なら勝ち点1が与えられる。上位4チームが決勝トーナメントに進出。準々決勝は予選1位と予選4位が対戦するたすき掛けとなる。
◆フィリップ・ブラン 1960年5月20日生まれ、フランス・モンペリエ出身の59歳。現役時代はソウル五輪に出場した。01年にフランス男子代表監督に就任し、02年世界選手権で銅メダル。ポーランド代表のコーチとして14年世界選手権優勝などの実績を誇る。17年から代表コーチに就任。人身事故を起こして活動自粛した中垣内監督の代行も務めた。
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