競泳界、勢力図激変の可能性 林享氏が展望 予想だにしない選手が五輪に?
五輪延期の光と影
東京五輪でメダルラッシュを目指す日本競泳陣だが、大会延期の影響は大きい。100メートル平泳ぎの元日本記録保持者で92年バルセロナ大会から3大会連続五輪出場の林享氏(45=東海学園大監督)は1年間で上積みを期待できる選手が多数いる認識を示した上で、プールで練習できない期間が延びることを危惧。泳ぎを取り戻すには一般的に休んだ日数の3倍を要するとされ、勢力図が激変する可能性も指摘した。
ナショナルトレーニングセンターが閉鎖された4月8日以降は大半の選手がプールで練習できていない。トレーニングができていた時点の仕上がりにもよるが、一般的に体力を戻すために1週間休めば3週間、1カ月休めば3カ月、と休んだ3倍の期間が必要とされる。五輪後に1年休養した選手が翌年から本格的な練習を再開して次の五輪に合わせるケースも多い。
緊急事態宣言が今月31日まで延長されたため、泳げない期間がさらに延びる可能性は高い。仮に2カ月休んだとすれば、本来の泳ぎに戻るのは冬場で、来年4月の代表選考会(21年日本選手権)に間に合う。だが、現在のような状況が3カ月、4カ月と続けば、トップ選手が万全の状態に戻れず、勢力図が大きく変わる可能性もある。これは世界的視点でも同じ。通常は五輪1年前の成績で伸びている選手を判断するが、今回は競技会が開催されていないため、どんな若手が現れるか想像がつかない。五輪本番で予想だにしない選手が出てくることは十分に考えられる。
競技会を開催できていないため、日本水連や各都道府県連盟の財政が逼迫(ひっぱく)し、強化費が削減される懸念もある。通常は選考会や五輪の直前に海外で高地合宿を張る選手が多いが、資金的な問題で実施できない選手が出る可能性がある。資金面の条件をクリアしても、新型コロナウイルスが海外で終息しなければ渡航できない。ルーティンが崩れた場合、いかに強化計画を立て直すかも重要になる。
延期がプラスに働く選手もいる。昨春に約3カ月休養した萩野公介(25=ブリヂストン)は復帰後タイムが伸びていないだけに、準備期間が1年増えたことは大きい。昨夏の世界選手権200メートル自由形銀メダルの松元克央(23=セントラルスポーツ)は右肩痛を抱えており、今の期間を治療に充てられる。個人メドレーで金メダルが期待される大橋悠依(24=イトマン東進)は年齢的な面ではライバルのカティンカ・ホッスー(31=ハンガリー)より有利。昨夏の世界ジュニア選手権200メートルバタフライ銀メダルの本多灯(ともる、18)ら若手にもこれからチャンスが広がる。
昨夏の世界選手権優勝により既に200メートルと400メートルの個人メドレーで五輪出場が内定している瀬戸大也(25=ANA)は4月に小学5年から指導を受けてきた梅原コーチとの師弟関係を解消したが、環境を変えて刺激を得る意味では良いタイミング。高校生や大学生なら話は違うが、1人でも練習をできるぐらいの知識や経験があるためリスクは少ない。
コロナ禍が収まれば、12月に日本選手権、来年2月にジャパンオープンが開催される予定で、会場は東京アクアティクスセンターになる可能性が高い。本来なら五輪前に1度しか使用しない予定だった五輪の本番会場で真剣勝負する機会が増えることはメリット。会場の雰囲気や動線に慣れ、不安要素を取り除いて本番に臨めることはプラス材料だ。
《選考会は来年4月の「日本選手権」》競泳は来年4月の日本選手権が東京五輪代表選考会となる。日本水連の定める標準記録を突破した上で上位2位に入ることが出場権獲得の条件。昨夏の世界選手権優勝により瀬戸の出場が内定している200メートルと400メートルの個人メドレーのみ出場枠は残り1となる。
日本水連は今年4月に予定していた東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権を中止し、コロナ禍が終息すれば12月に選考会を兼ねない日本選手権を開催する予定。5カ月間に2度の日本選手権を行う異例の日程となる。
4月8日のナショナルトレーニングセンター閉鎖後は大半の選手が本格的な練習をできていない。自宅での筋力トレ、フィットネスバイク、ランニングなどに加え、庭に簡易プールを設置して泳ぐ選手もいるが、体力低下や水中感覚の鈍化は避けられないのが現状だ。
◆林 享(はやし・あきら)1974年(昭49)9月16日生まれ、宮崎県出身の45歳。大分鶴崎高2年時に日本選手権の100メートル平泳ぎで初優勝し、その後6連覇を達成。92年バルセロナ、96年アトランタ、00年シドニーと3大会連続で五輪に出場した。シドニー五輪後に現役引退。現在は東海学園大で水泳部監督、准教授を務める。
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